「時間が経つほどに心を抉るビターな作品」aftersun アフターサン yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
時間が経つほどに心を抉るビターな作品
31歳の誕生日を迎えた主人公が、11歳の夏休みに父親と旅行した時の記憶を、ホームビデオの映像とともに蘇らせていくストーリー。ビデオに映る父は、現在の娘と同じ31歳だった。
四つ折りにして持っていた古い写真を広げたかのような質感のポスタービジュアルに"良作の予感"しかなかった本作。どこにでもいるような父親を、こんなにも繊細で弱い存在として描いた作品はこれまで無かったように思う。観終わった瞬間は、ほろ苦い、という表現がしっくりきたが、時間が経つにつれ心が抉られるような感覚だ。
この父にとって、日に日に成長していく娘は生きる糧でもあったが、それと同時に目を逸らしたい「未来」の象徴であり、自己嫌悪に陥れる存在でもあったのだろう。どうにか父親然と振舞おうとする姿が脆くて切なかった。
そんな父との旅を思い返す主人公の表情は暗い。8ミリフィルムの映像の外で、父が独りで過ごしているシーンは、あくまで娘の想像でしかないのだが、ようやく当時の父の苦しみや焦りを理解できる立場になったからこそ、もっと違う風に接していたら…あんな言葉を発しなければ…と、後悔しているように見えた。
親と子は、どうしたって、心からの相互理解なんて不可能だ。この映画の父と娘もそうであるように。そんな二人が、旅先のホテルの一室で、コットンに含ませたアフターサンをお互いの顔に塗り合うシーンは、切なくて涙がこぼれた。
とても静かで美しい作品だけど、もう一度観るにはビターすぎる。
やっぱり正面から向き合いたくない幼少期の記憶なんて、うっかり掘り起こさないほうがいい。
とりわけ、父親との関係が複雑な人は閲覧注意かもしれません…