「悲し過ぎるかも・・と思ったけど」aftersun アフターサン Nana Shinozakiさんの映画レビュー(感想・評価)
悲し過ぎるかも・・と思ったけど
なんでこんなに悲しい映画を・・・と、まず思って、監督の体験に基づいたものだったと知って、更に悲しくなって・・・
映画の中ではお父さんがどうなったのかは明示されないけど、楽しく過ごしているシーンでも、切な過ぎる・・
監督インタビューで、「悲しみと喜びは対極にあるが、同じコインの裏表のようなもの」(cinra net)と話していたけど、この映画の明るさは、かえって悲しみや絶望を際立たせる。生きるエネルギーを感じるような映画が、私は好みだけど、悲しみを描くものがあったって、いい、でもこの映画は弱ってる時には観れないかも。
ソフィがステージでLosing My Religion を歌うところ、お父さんが好きな歌!とリクエストして、カラオケなので歌詞が出ていてそれを見ながら、お父さんの内面を覗いてしまう、カラムもまた、思いもかけないところで、自分の内面の葛藤と対峙してしまう。ソフィはお父さんの不安を、薄々は気付いている。カラムが太極拳をしたり、必死に心の安定を求める姿が痛々しい。
カラムがこれからのことを語るシーンや、ソフィにこれからも色々なことを話して欲しいと言うシーン、未来へ希望を持とうとしていたり・・・
ソフィの無邪気な発言に、心を乱されてしまうカラム・・・それを父と同じ歳になって思い返しているソフィ・・・
ラストダンスで、レイブのシーン、ストロボの中、断片的に浮かび上がるカラムに、大人になったソフィが重なって、それは、お父さんの悲しみや葛藤を、同じように理解出来るようになったのか、それはソフィにとって、救いになるのか・・・
ダンサーインザダークを観たあとのように落ち込んでしまって、でも映画のことが頭から離れずに、監督インタビューを読んでいくうちに、「自伝ではなく、自分の父との関係のエッセンスを取り込んだ作品」(fansvoice)と話していて、そうだ、ほんとのことではなく映画なんだった、と、やっと目が覚めて、全部本当にあったことと錯覚してしまうほどリアルな悲しみだったから。
fansvoiceのインタビューによれば、カラムが1人のシーンは、現実にあったことではなく、大人になったソフィの想像で、海に入っていくシーンも想像ととることが出来る。
映画の中で、視点がシームレスに変わっていくところが面白い。大人になったソフィの視点が主なのだろうけど、実際にあったこと・想像の部分・誰の視点かわからないところ、とあって、記憶の再構築と、映画を構築していくこと、というのもまたシームレスに繋がっているようだった。
今まで観た悲しい映画の中で1番悲しく、心に残った。語り過ぎず、観客に委ね、でも細部まで丁寧に作り込まれていた。