劇場公開日 2023年5月26日

「自撮旅行」aftersun アフターサン かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自撮旅行

2023年5月26日
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2022年のベストムービーにあげる評論家も多い、イギリス期待の新星シャーロット・ウェルズによる自伝的ヒューマンドラマ。しかし、公開初日に見た感想を正直に申し上げるならば、その評価少々盛られすぎのような気がする。何せ本人がカミングアウトしているのかどうかもよくわからないのだが、そのファッションや髪型からして監督シャーロットおよびその分身ソフィはレズビアンであり、その父親カラム(ポール・メスカル)も(劇中はっきりとは説明されてはいなのだが)多分自分がゲイであることに苦悩していたのだろう。

つまり本作は、離婚した父親と母方に預けられている一人娘のトルコ旅行を描いているとともに、LGBTQのエコーも感じとらなければならない作品なのである、そして、日本の濱口竜介にまさるとも劣らないスコットランド人シャーロット・ウェルズの映画エリートとしての経歴が、本作高評価の一翼を担っていることは間違いないだろう。年齢的にはちょっと上になるけれど同じ女流フェミニスト監督のケリー・ライカートやセリーヌ・シアマと比べると、実力的にはまだまだという感は否めないからだ。

ほとんどの客がイギリス人で占められているトルコにあるファミリー向け観光ホテルで過ごした数日間を、娘ソフィがホームビデオで撮った映像と、通常のカメラ映像とで綴られている。大人に成長したソフィと父カラムが真っ暗闇のディスコで踊り狂うシーンが意味深に登場する以外、父娘がプールサイドやレストラン、ホテルのベッドでダラダラと過ごす様子が淡々と映し出されるだけ。その〈ディスコ〉が何を意味しているのかわからないと、この映画の良さがまったく伝わらないのである。

これはシャーロット・ウェルズがインタビューで答えているので別にネタバレにはならないと思うのだが、このカラム(おそらく市川猿之助と同じ理由で)、旅のある時点で自殺して帰らぬ人になってしまったのだろう。その生前に撮ったビデオを大人になってから見直したソフィは、とごろどころ抜け落ちている記憶を埋めるために、〈ディスコ=アフターライフ〉をさ迷っていたカラムの亡霊とともに妄想の中で、最期の父娘旅を完結させようとしたのではないだろうか。ラスト、自分との別れを惜しむ娘の愛らしい表情を撮り終えた亡き父は安心してあの世へと旅立っていったのである。

大林宣彦監督『異人たちとの夏』や黒木和雄監督『父と暮らせば』にも通じる感覚はどこか東洋的で、日本人の方が見てもわりとすんなり受け入れられる気がする。私なんぞは、一人旅で間違えてファミリーホテルにチェックインしてしまった時の居場所のなさを、この映画を見てふと思い出してしまった。のんびりとした昼下がり、他に何もすることがなくホテルのベランダで海パンを干している時に、階下から微かに聞こえてきた子供たちのハシャギ声。その声にボッチ感を増幅されて、いたたまれなくなった時の記憶がよみがえって来たのである。

(精子提供を受けて出産した?)赤ちゃんの鳴き声が隣室がら響いてきた時、大人になったソフィもまたトルコのファミリーホテルで居場所をうしなった時のなんともいえない孤独感を思い出したのではないだろうか。死んだ父親と同じ31歳になったソフィは、あの時の父と同じく自殺願望にとりつかれたのではないだろうか。その心の穴は意外にも深く、ソフィを〈あの夏の断片的な思い出〉へと、〈父のいるバルド〉へと導いたのではないだろうか。「パパ安心して、こんな私でもちゃんと家族ができたのよ、私は大丈夫」と伝えるために。

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かなり悪いオヤジ