ヤジと民主主義 劇場拡大版のレビュー・感想・評価
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自由民主主義を目指すのか、体制維持を目指すのか、それが問題だ
今年ひとつのトレンドとなった(?)選挙や政治を扱ったドキュメンタリーの掉尾を飾る作品でした。選挙を取材する人が主人公となった「劇場版 センキョナンデス」、「シン・ちむどんどん」、「NO 選挙, NO LIFE」、選挙に直接関わる人が主人公だった「ハマのドン」、選挙を離れて安倍元首相の国葬の日が行われた1日の全国の風景を取材した「国葬の日」と、取り上げ方は様々ありましたが、本作はこうした類型からすると「ハマのドン」と同様のジャンルになるように思われます。ただ「ハマのドン」と決定的に違うのは、「ハマのドン」は主人公が選挙運動をする側だったのに対して、本作では安倍元首相の演説中にヤジを飛ばして警察に排除されたお二人の一般の方である大杉さんと桃井さんが主人公でした。
”事件”が起こったのは2019年の参院選挙。札幌で応援演説をしていた安倍首相(当時)に対して大杉さんがヤジを飛ばすと、大勢の警官が飛んできて排除されてしまう。それを見ていた桃井さんも、大杉さんが排除されたことに触発されてヤジを飛ばしたところ、同様にこちらも排除されてしまう。その後二人は不当な排除であったとして北海道警を相手に国家賠償を求める裁判を起こす。一審は二人の勝訴だったものの、その後2022年の参院選挙期間中に安倍氏が狙撃され亡くなるという大事件が発生。さらに2023年4月の統一地方選挙期間中に、岸田首相が応援演説に出向いた先で襲撃されるという事件も発生。その2カ月後に出た二審判決では、安倍氏銃撃や岸田首相襲撃の影響があったのか、大杉さんは敗訴、桃井さんは勝訴という結果になり、二人の明暗が分かれることになるところまでで映画は終了。二審判決に不服な大杉さんも道警も上告したため、現在最高裁で争われているようだけれども、現時点では結論は出ていない模様です。
上記のような内容の作品でしたが、これを観て思ったのは、究極的に日本がどういう国を目指していくのか、ということだと思いました。それこそ『外交の安倍』と言われた安倍氏は、首相時代の国会での演説などで、その外交方針について「自由、民主主義、基本的人権、法の支配という基本的価値を共有する国々との連携の強化する」とたびたび発言していました。これは覇権主義的に勢力拡大をしている中国を念頭に置いたものと解説されていますが、これを読むと、安倍政権としても、日本は「自由」や「民主主義」を標榜し、「基本的人権」を尊重し、「法の支配」を行う国であることを自認しているようです。
しかしながら、実際は当の安倍氏の選挙演説でヤジを飛ばしただけで警察に排除されてしまうのが実情で、これではまるで中国と同じ路線ではないかと思ってしまいました。
先ごろ香港の民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が、カナダに亡命したという報道がありました。一連の香港民主化運動に対する中国政府の”弾圧”には、日本の世論も概ね批判的ですが、中国政府にしてみれば周庭氏は反政府活動を行った不逞の輩です。でも中国は共産党支配を絶対視し、それに反する分子は徹底的に取り締まるのが国家の方針であることを隠しておらず、「自由」も「民主主義」も「基本的人権」も看板にしていません。そうした中国の態度を念頭に、上記の安倍演説があると解説されている訳ですが、当の日本、しかも安倍氏の演説において、どちらかと言えば中国風のことをやっているとすれば、羊頭狗肉そのものでしょう。
勿論安倍氏銃撃や岸田首相襲撃というあってはならない事件が起きたことは事実なのですが、本作に登場する専門家による解説によると、これらの事件の犯人は、ヤジを飛ばすどころか気付かれぬようにターゲットに近づいて犯罪行為に及んでおり、ヤジを排除すれば防げた事案とは到底思えないとのこと。テロ行為を事前に察知して防ぐというのは当然目指すべきところですが、ヤジを飛ばしたら即排除というのは、チト違うのではないかと思うところです。
この辺りの解釈は人によって様々と思いますが、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配を基本的価値とする」ならば、軽々に排除などすべきではないし、逆に体制維持のための秩序を最上の価値とするならば、現在の「基本的価値」という看板を取り下げるのが筋と言うものではないかなと思った次第です。
あと、本作はHBC(北海道放送)という地元テレビ局が制作したとのことで、その点で大いに価値があるものだと思いました。とかく権力に阿るのが昨今のメディアであり、特に放送法の許認可権を握られているテレビ局は、委縮しがち。それがこうした作品を世に出したというのは、称賛に値するものであり、今後も続けて貰いたいものと思います。
そんな訳で、評価は★4とします。
襲撃事件以降をもう少し掘り込んで欲しかった。
札幌で安倍氏応援演説時に起きた道警のやらかし事件のドキュメンタリーです。
HTBの食い付きを激しく評価したい。
映像みると道警が全く法律をわかってない、またはただ上から言われた通りやってるのは明白。
しかし安倍氏殺害、岸田襲撃事件以後が司法もぶれがでて怖い。
女性が言っていたが、、、こういう言論封殺、全体主義的な権力行使の結果として岸田襲撃事件は有るかもなと思う。もっと大規模な爆破や核施設への襲撃などパンピーを巻き込み大規模な事が起こる事を私は一番恐れている。
企業との関係、アメリカとの関係、宗教との関係で肥大した与党にどうやら自浄作用はもう無い。
庶民舐めると怖いでー、血見るどー。
不満は溜めるとまずいよ、小出しにさせないと、、。
安倍氏の件は根本が私的な恨みなんで少し違うが、要人警護と人権の落とし所探しと言う問題はある。
法手続きへの等閑
与党総裁の街頭演説の場でヤジを叫んで警察に排除され、司法に訴えた(刑事は不起訴、民事は裁判継続中)2人の青年に焦点をあてるドキュメンタリー。
「リアリティ」の直後に観たので(レビュー参照)、ことさらに道警のアンプロフェッショナルさが際立って感じられ、とても残念だった。
警察は、声援や応援プラカードの主はそのままに、ヤジの発声者や政策批判的なプラカードを掲げる者だけを強制的に移動させる。その法的根拠を問われても警官たちは答えない(根拠がないからはぐらかそうとしているように見えた)。それでいて、その行動は多くの市民やメディアのカメラの前で公然と行われており(その映像のおかげで裁判やこの映画が成り立っている)、警察がそれを問題だと思っていなかったのは明らかだろう。
そこからは、法に基づく表現や行動の自由といった国民の権利を擁護しながら職務を執行しなければならないという考え方の欠如、逆に職務遂行に必要な範囲で法を都合よく解釈・運用する姿勢が強くうかがえる。それで法治国家といえるのだろうか。
作中でも述べられているが、原告の2人が裁判に訴えた理由の本質は、自分の意見が聞き入れられないことへの不満ではなく、公権力が恣意的に意見表明の機会を奪えることへの異議申し立てである。自由で民主的な社会のために、社会の構成員たる私たちを代表して闘ってくれている(あるいは、その役割を背負わされている)のだといえる。ヤジの内容に共感するかとは関係なく、そのことに深く感謝したい。
映画の立ち位置は明確に原告寄り。制作者のHBC(北海道放送)は地元の主要マスコミとして、言論の自由(と権力による抑圧)の観点を重視しつつ、原告の2人がそれぞれ社会的セーフティネットに関わっていることから、生活の現場と中央政治とのギャップにも光を当てている。
いつもはドキュメンタリーの意図とバイアスを気にしているが、本作においては実際の記録映像があまりにもアレで(ついつい「はぁ?」とか口に出ていた)、どう頑張っても警察側を擁護はできなかった。
付記:道警本部長が現場の判断だと言い続ける一方で、同様の排除事案が他県警管下でも起こっていたことから、中央(警察庁)からの警備指示について情報公開請求されたが、開示結果は全て黒塗りだった。元首相秘書官が警察庁長官となり、政権批判を遠ざけるような警備指示を出していたのではないかという劇中での仮説は証明されていない。
ちょっとコミカル
社会問題を取り上げているのですが、なぜかコミカルに感じてしまう場面も。。特に道警が作成した再現動画は、ギャグにしか見えません。
どっちもどっちみたいな気もしますし、ヤジを飛ばすのは馴染めない行為ですが、「排除するべき人」「排除してもいい人」を作るのは良くないと思いました。。
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