劇場公開日 2023年12月9日

  • 予告編を見る

「呼吸をするにもお上のお許しが必要になるのか」ヤジと民主主義 劇場拡大版 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

呼吸をするにもお上のお許しが必要になるのか

2025年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 事件発生時から僕も興味を持っていた問題について、取材を続けて来た北海道放送のスタッフがまとめたドキュメンタリーです。

 事の起こりは2019年7月の札幌駅前です。参院選の地元候補者を応援する為に安倍晋三が来て街宣車で話し始めた時、或る男性が「安部辞めろ~」とヤジを飛ばした途端、私服警官に囲まれて彼は遠くに連れて行かれてしまいました。男性が演説場所に戻ろうとしても、私服は彼を放しません。身柄確保の法的根拠を男性が尋ねても警官は答えられませんでした。

 また同じ時、少し離れた場所に居た女性も「増税反対!」と声を上げた途端に、警察に囲まれて離れた場所に連れ出された挙句に、その後もずっと付きまとわれる事になりました。

 更にひどいのは、この場所に「年金100年安心プランはどうなった」と書いたプラカードを持って大人しく近付いた途端に警官に取り囲まれた女性です。安部の目の前で「安部総理を支持します」と書いたプラカードを持って並んでいる人には勿論何らの取り締まりもありません。これなど露骨な言論封殺です。

 この様な警察の露骨な動きの背景として想像できるのが、2017年の東京都議選の応援演説に秋葉原へ駆け付けた安倍晋三が多くの聴衆からヤジを浴び続けて「こんな人たちに私たちは負ける訳にはいかない!」と聴衆を指さした事です。あの時の彼の苛立ちを忖度した官僚が居たのではないかと勘繰ってしまいます。

 本作では、当日何があったのか、そして演説へのヤジは違法なのかを巡る法律論までを裁判の場を通じて詳細に紹介されます。

 日本の選挙制度を取り上げた映画『NO 選挙、NO LIFE』でも、街頭演説は候補者と直接接する事が出来る貴重な機会として紹介されていました。しかし、今やそれは支持者だけがお行儀よくご託宣を伺うだけの場にされようとしているのです。一方、国会では人権を無視するような汚いヤジまでもが野放しです。あれを取り締まるべきとは思いませんが、街頭のヤジも取り締まるべきではありません。

 呼吸をするにもお上のお許しが必要になる様な息苦しさが世の中を覆い始めています。

  2023/12/20 鑑賞

La Strada