パリタクシーのレビュー・感想・評価
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パリ、青き空の下の思い出
20数年前、私は数日間、パリを旅した。
貸切タクシーなんて優雅なものではなく、地下鉄と自分の足でどこまでも街を歩いた。スリに気をつけながら・・・。
歩道から見上げる街並みは、映画のセットのようにどこまでも風格があって、スカイラインが揃っていて、一直線に伸びていた。セーヌ川に架かる様々なフォルムの橋は絵になる美しさだった。
しかし、目を下に向けると、歩道にはゴミや犬の糞が・・・。凱旋門の上から眺めた放射状の街並みは、屋上にところ狭しと並べられた室外機とタンクと水蒸気だかなんだかわからない煙で一気に現実に引き戻された・・・。
美しき夢の世界と現実が同居している街なのだと思った。
朝、昼、夜。車窓から観るパリの街は、どこまでも美しい。夢の世界だ。
フランス映画なのに、バックに流れる曲は英語歌詞のアメリカ懐メロ。違和感を覚えたが、話が進むにつれてどんどん馴染んでいくから不思議。
豪邸から施設に移るというマダムとドライバーが最後どういう関係になり、どのような別れになるのか、なんとなく想像がついた。でも、そこに至る過程のマダムの物語は想像を超えたものだった。
マダムが語る壮絶な過去。厳しい現実の世界。愛と戦いの日々を乗り越えてきた彼女。しかしその佇まいはときに悲しみと憂いと静かな怒りを見せながらも、どこまでも穏やかで、ユーモアで、お茶目。ドライバーの苛立ちとささくれだった心がどんどん柔らかくなっていく。
寄り道だらけの1日は、死期を悟ったマダムが人生の節目を振り返る最後の旅だった。距離にして数10キロの旅だが、ドライバーが年間12万キロ走っても手に入れられないような1日になったに違いない。だから、愛する人と一緒に彼女に会いに行った・・・。多分、言いたかったのだろう。「ありがとう」と。
生きていく中でぶつかる厳しい現実。
それを美しい風景と音楽と、滋味ある演技で丸ごと包み込んで、暖かで静かな余韻を残す映画だった。
腕を組んでもいいかしら トレビアン あした会う誰かに、少し優しく、笑顔を向けられそうな気がします。
多かれ少なかれ、呉越同舟。
タクシーで乗り合わせる運転手さんとお客さんの関係。
それは、たまたまの偶然に道端で手を上げたお客と、そこに通りかかった運転手の出会いの物語なのだ。
それぞれの人生は、もちろん車内でそれを語らないならば お互いに知る由もないし、もうそれっきり二度と会うこともない一期一会の同席だろう。
宗教と 野球と 政治の話題はご法度なのだそうだ。
それでも、必要があってその車に乗せてほしいと願った誰かの人生と、それを拾った側の人生とは、交差点でかすかにクロスする関係。
パリ五輪が終わったばかりで、良い映画を観たと思う。
あの街に住む人たちと、その人たちのかつて住んでいた家の跡地の姿。家族や恋人の思い出。人と歴史。喜びと悲しみ。
そして、そんな人たちが生きている今のパリの街並みの、とくに夜の通りの美しさには目がうばわれる。
老婦人の辿ってきた歴史の重たさには、まさかまさかの驚愕の連続なのだが、胸が騒ぐ物語の進行に合わせて、それをまた贖ってくれる英語歌詞のジャズが挟まり、エンドタイトルでは静かなオリジナルサウンドトラックが、素晴らしい余韻の一時を与えてくれるのだなぁ。
老人ホームに近づくにつれて黙ってしまうシャルルとマドレーヌ。
鑑賞しているこちらまでも、夜の暗い車内で、別れの予感に、たくさんの物思いに言葉数が減ってしまう時間だった。
この「同行二人」は、実はタクシーでも夫婦関係でも、もちろん会社での人間関係でも同じことなのだ。
サービスと、いくばくかのお金と、思いやりとが、その同行二人の人生を支えてくれることがよくわかる。
不機嫌な客、攻撃的なモンスターな客、酔客、多弁な客・・たくさんの出会い。
タクシーの運転手さん、そしてフォロアーの皆さん、お疲れさまです。体も心も大切になさってください。
ご安全に。
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なお、
本作のために出演を快諾し、マドレーヌの生き様と自分のライフスタイルを重ねた、女性の権利獲得活動家にしてシャンソン歌手=主人公役のリーヌ・ルノーの人となりについては ―
VOGUE JAPONの
「情熱は人生のすべてです」──94歳の現役俳優兼シンガー、リーヌ・ルノーが絶やさない活動への情熱【世界を変えた現役シニアイノベーター】
がとても良いレポートを上げているので、ご一読を。
また、
劇中で流れる英語詞のシャンソン・R&Bは、主人公マドレーヌのその時々の心境を表現していました ―
①エタ・ジェイムズの「At Last」。
〽やっと最後に幸せが
②ダイナ・ワシントンの「This Bitter Earth」。
〽この苦い世の中に愛はあるのか
③最後はダイナ・ワシントンの「On The Sunny Side of The Street」。邦題「明るい表通りで」。
もちろんこれらの楽曲は、マドレーヌが繰り返し口にした「50年代の女たち」が押し潰されて生きていた'50〜'60年代の、
その時代の黒人女性歌手たちの歌唱がチョイスをされています。
YouTubeではリーヌ・ルノー本人の歌唱「パリの空の下」も聴けてとても良かったです。
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たった90分の映画ですが、小道具=写真機カメラの伏線と、出演者たちの美しい目のカットが幾度も印象的に映るスクリーン。心が捉えられてしまうこと請け合いです。
走馬灯のように一瞬だったという92年。
父親を殺され、恋をし、虐待を受け、一粒種をベトナムで失い、出所し、そして老人ホームへ向かう道中。
「腕を組んでもいいかしら?」とマドレーヌは僕たちに訊くのですよね、
そして僕たちは
「ウイ、トレビアン、もちろん」と誰かに応える必要があるのですね。
話を聞くこと。一緒にご飯を食べること。共感して泣くこと。
嫌なドライブで始まったこの映画が、「どうかこのまま終わらずに走り続けて欲しい」と願い、川沿いの緑や、夕暮れのカフェ通りや、修復中のノートルダムや、舗道や、夜の街の軒々を、あの二人と一緒にずっと車窓から眺めていたいと願ったものです。
でもひとは別れる。
寂しいが、別れる時が来る。
シャルルならずとも
あした会う誰かに、
少し優しく、笑顔を向けられそうな気がします。
おばあさんのダイナミックな人生
タクシーに乗せた高齢のおばあさんとタクシー運転手との交流。
おばあさんから語られる決して幸せとは言えなかった人生。
最初は聞き流していた運転手も、だんだんと興味を示すようになる。
最後は予想通りの展開だったが、自然と涙が出た。
バリらしいルノーのタクシー。
そしてパリのキレイな街並み。
パリの街並みがホントに美しい。。
劇中、アメリカの1950~1960年代っぽいオールディーズが流れる。
おばあさんの過去の人生のシーンとともに。
フランス映画なのに、なぜって思ったけど、マッチしてた。
流れる歌の字幕の歌詞がそのシーンと合わせた内容だった。
運転手役の役者さんも渋くて愛嬌があってよかったし、92歳のおばあさんも良かった。
おばあさんのダイナミックな人生に驚きながらも、最後はハートウォーミング的に感動してしまった。
良い映画でした。
92歳になった私と若かった頃の私が手を重ねて視線を交わすシーンが良...
92歳になった私と若かった頃の私が手を重ねて視線を交わすシーンが良かった。自分は自分の一番の理解者であり、自分のことは自分がいちばん褒めてあげたいので、こんなふうに身体も精神も成熟しきった今の自分が苦悩に満ちた若き頃の自分へ向ける眼差しにはやはりグッときてしまう。
パリオリンピックでのフランス人に関する前向きでない風評をいろいろと聞いた後なので、
マドレーヌがタクシー乗車中に急にもよおして、トイレを借りるためだけに選んだレストランがアジア系のレストランだったのが…なんか…気になってしまった
10分で飽きた人はきっとこの映画面白くないでしょうね
感動した。非常に美しい物語。いや、現代のおとぎ話か
さえない中年男が人生に躓き、ひょんなことからタクシーに乗せた乗客の老婆と、いつの間にか心を通じ合い、その老婆の人生をたどるツアーが始まる。
ざっとこんなところだが、パリの街並みと少しの歴史が見事に挟み込まれ、まるで父親の運転でおばあちゃんの家に遊びに行く道中のような気分になる。
まあ、それ以上でもそれ以下でも無いのだけれど、簡潔にまとまって、スッキリ見終わることが出来る。
むかし『ハリーとトント』なんていう映画があったが、あれは老人が飼い猫と旅に出るロードムービーで、ハリーが猫のトントに話しかけることで身の上が語られていく巧みなストーリーテリングだった。ハリーは子供や血縁を頼ってあちこち訪ねまわるのだがどこでも厄介者扱いされ相手にされない。そんな独居老人の孤独とノスタルジーを語る映画だった。
この映画でも老婆は美しい思い出として昔を懐かしむが、それ以上につらい出来事が語られていく。誰しもが同情を禁じ得ないと思う。多かれ少なかれ生きていたら死ぬほど苦しい思いをしたことがあるはずだ、
出来過ぎていてちょっとついて行けないという意見もあるかもしれないが、私はとても楽しめました。
フランスらしい、粋で素敵な90分
いろんなお客さんを乗せる、タクシーの話?
と思ったら。
92歳の老婦人が、終の住処・老人ホームへの長距離を依頼。
彼女とタクシー運転手、2人の話。
なるほどね。
最初は「ただの客」としか接していない運転手が。
老婦人の波瀾万丈すぎる話や、思い出の地に寄りながら進む道。
この老婦人が、ヨボヨボ(失礼)っぽいのに味があり。
素敵だなあ。一緒にタクシーに乗っている気分。
2人の距離が最終的に縮まったのがわかるシーン。
最初は後部座席だったのが、最後は助手席に。
人の友情は長さじゃない、密度。ラストもほろり。
それでもいいんです
貧乏暇なし、免停寸前の46歳のタクシー運転手シャルル。92齢のマドレーヌを老人ホームに送るよう依頼される。シャルルは、彼女の思い出の地へ寄り道しながら、その歩みを知る。マドレーヌは、かつてセンセーショナルな事件の当事者であり。
最初は古くて様々な思い出を語っていたが、その事件と後の苦難に驚きました。そして、ユーモアのさじ加減もいい。結末は予想できたけど、それでも感動、涙しました。
92歳のマドレーヌ役は、94歳のリーヌ・ルノー。素敵なおばあさんです。フランスの草笛光子か。
人間って人間によって変わる。
予告編だけでも人間の心を変えていく映画だと思って、観たかった。
昨日、暑さを凌ぐため、図書館へ行って新聞を読んでいた。ふとDVDの棚を覗いたらこれがあったので借りてきた。
たくさんの人が私も同意するレビューを書いているから、私は他のことを書こう。映画についていた、チャック・ローズ(Chuck Rose)のインタビューでクリスチャン・カリオン監督は(映画を米国でリーリースする前のインタビューだと。2021年−2022年だと察する)フランスでのDVは10年前でも公表することは、タブーであったと。そして、この映画は1950年の時代だから、『女は何も言えなかった』と。この映画の世界は現実だったようだ。
監督がこの車でのシーンはスタジオセットだと。
パリの風景を空から、前方後方側面から前もって取っておいて、役者たちは車の中で演技をしていて、それを合わせてったらしい。(言葉を知らないのでこんな言い方をしているが、映画撮影に詳しい人は訂正してほしい)私はパリのあちこちで車を運転して撮影したものかと思っていた。スタジオセットという違和感がなく、この話を聞いてからもそうなんだという感じ。
好きなシーンの一つは:
食事をしたあと、パリの街を車まで歩くシーンである。これが好き。なぜかというと、マドレーヌの後半の人生にこのような人がいなかったから。それに、このようなチャンスがなかったかもしれないから。
マドレーヌ(リーヌ・ルノー)「腕を取っていい。(腕をかして)」
シャルル(ダニー・ブーン)「喜んで。」
マドレーヌは息子がベトナム戦争でなくなって以来、女性人権運動に取り組んだようだ。息子が
マドレーヌが監獄に入っている間、世間からの誹謗中傷で苦労したことをマドレーヌに
いうが、マドレーヌはあたかも母親や息子の苦しみを理解せずに、弁護士になる道に進まなかった息子に失望していたように見えた。息子に対する謝罪の意味でも、DVから女性解放の道を進んだように私には見える。
あと、まず映画を観る前に、映画の試写を観たが、マドレーヌがレイと結婚していた時代にいっさい触れていないので、映画のストーリーを少し勘違いしていたようだ。
だから人生は素晴らしい
92歳の老婆のなんと魅力的なことか。有名なシャンソン歌手とのことでしたが、単なる演技であれだけの人物を演じられるとは思えません。人生の年輪のなせる表現なのでしょうね。
運転手は『フランス特殊部隊RAID』でヒロインの上司のち彼氏を演じた人。コメディアンだそうですが、表情の変化が絶妙でした。
作品については一言だけ、
「この映画に出逢えてよかった!」
ありがとうございました。
街と思い出
東横インのVODで『アイス・ロード』に続けて鑑賞。
タクシードライバーの男性にも老婦人にも、人生で嬉しいこと、辛いことが色々とあった。そういった思い出がパリの街と密接に結びついているのが、あの場所で〇〇をしたと語る2人から伝わってる。パリの街は2人にとっての人生そのものと言ってよい。思い出は、歳をとればとるほど重みを持つのが、老婦人の語りから感じられる。
街と思い出は密接に結びつくからこそ、彼女は旅に出ることを勧めている。あの時あの街にいてあんなことをしたと、後から振り返る時間をたくさん持てることが、人生を豊かにしてくれるだろう。そのように思える深みのある映画だった。
老婦人による真心のこもった手紙は泣けた。
尊大。
非支持。
二人の尊大に引く。
身綺麗な老婦人でも駄目。
老健施設入所時刻遅参で所員に残業を課す尊大、
物語の為に施設は杓子定規な悪所と解するなど。
往年の女性運動の旗手だった故の?傲慢な時代錯誤は見過ごせぬ。
米国の男が好きだからリベラルな正義か?
三宅隆太氏推薦作だが。
ヘイタクシー
今年はパリオリンピック
乗客として乗った終活する92歳のマダムマドレーヌと
無愛想な金のないタクシー運転手シャルル
この2人がパリの街を、トレビア〜ンな音楽と素敵な景色と一緒に彼女の人生をめぐるヒューマンドラマです。
1人の女性の人生をタクシー車内で語り尽くすことはできないけど、僕も語り尽くせないほどの人生をこれから積み上げていきたい
タクシー運転手と客との思いがけない出会い
いくつかのタクシーにまつわる映画作品のうち、『人生タクシー』というイランの作品は、客が入れ替わり立ち替わるので、全く異なる。私自身は、障がい者の福祉有償運送活動をしていて、笑わせてくれたり、悲しい体験を話してくれたりする人たちと出会った経験があり、本作のマドレーヌほどではないけれど、運転手と心を通わせたいという気持ちはわかる。
チラシの文面を見直しても、全く想像がつかない展開であった。実際の料金も気になるところである。
流れゆく景色の全てが美しく、ひとときの夢を共有した様な気持ちになる佳作。
「一年に地球3周も走るのに、楽しい思い出は、娘にせがまれて走ったイルミネーション輝くクリスマスのドライブの一回だけ」
タクシー運転手のシャルルの語る言葉のなんと重いことか。「タクシー運転手は自分に合っている」ともいうが、それはもちろん、周囲の人とうまく付き合うことができない自分を嘲る呪いの言葉。
成功している兄とはソリが合わない。娘が愛してやまない妻の実家を売却しなければならないほど金に困り、休みもろくに取れない。運転免許もあと2点で免停…。日常生活がうまくいってない彼の苛立ちは、観ている自分にもどこかしら響き合う。
そんな時に乗せた老婦人。
出会いは、クラクションを鳴らしたことへの叱責というマイナスからのスタート。早く距離を稼ぎたいシャルルなのに、この老婦人は急ぐことを目的とせず、遠回りになる寄り道を指示してくる。しかも、できればしゃべらずにいたいのに「幾つに見える?」と言ってめがねまで外す。
「歳をとった今も色気を忘れていないのか?面倒くさそう…。」そうなのだ。冒頭のわずかな時間で、気がつくと自分はすっかりシャルルになったつもりで老婦人を見ていた。
だから、その後、老婦人が92歳と聞くと、シャルル同様、素直にびっくりするし、面倒な寄り道にもキチンと意味があることがわかってくると、我々も、だんだん老婦人の人生の歩みに耳を傾けたくなっていく。
彼女は、自分が行動したことの責任は、全て自分自身で背負う。あんなに大切にしたいと願い、守ろうとしていた息子も、実は、彼女自身の行動が原因で、別の面から傷を負っていたことを知らされる。現代の眼差しで観ているこちらは、やるせなさがつのるのだが、彼女は決して「時代」そのものを否定しない。それどころか、時代を変えたきっかけの一つが彼女だったのにも関わらず、そのことを全くひけらかさない。
肉体的には、歩みがおぼつかず、トイレも近くて紛れもない老人である彼女なのだが、語られる言葉や行動は若き頃のままチャーミングで、シャルル同様、我々もどんどん彼女に惹かれていくのだ。
2人のパリの端から端まで、昼から夜までの小旅行は、それぞれの人間性回復の旅でもあった。
流れゆく景色の全てが美しく、ひとときの夢を共有した様な気持ちになる佳作。
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