劇場公開日 2023年4月7日

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「理不尽な自信の境遇を受け入れながら生きている人々の心に沁みる」パリタクシー ブログ「地政学への知性」さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0理不尽な自信の境遇を受け入れながら生きている人々の心に沁みる

2025年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

楽しい

幸せ

「鑑賞後に流れる涙の理由を理解するのに苦慮」
小見出しが率直な筆者の感想だ。直ぐにレビューを書けた人に嫉妬してしまいそうだ。筆者は書き始めるのに二週間要した。何故か止まらない鑑賞後の涙の理由。決して自分に起こることはないだろうと想いながらも幸せのお裾分けをいただいた気持ちになれたからだろう。本当に幸せな時って笑顔じゃなくて涙になるんだなぁ。

「浮世に生きる人々の境遇を運転手として表現」
映画のイントロにあるとおり「金なし、休みなし、仕事はギリギリ状態(免停目前)」という境遇のなかで日々を乗り切る主人公に自分の今の姿見を重ねるのは筆者だけではないだろう。不満の責任の矛先がなく、そんな心境をひた隠しにして平気な素振りを見せながら生きるタクシー運転手の姿は、はじめは受け入れがたいものがある。そんなタクシー運転手に舞い降りたのは終活に向かう壮絶な人生を生き抜いた老婆。終の住処に寄り道しながら向かう姿は、死期を悟りつつ目に浮かぶ走馬灯を表現するかのように神々しい。

「単に『壮絶』と表現するだけでは言葉足らずな老婆の人生」
ドン底にいる気持ちの運転手の心を解きほぐしていく老婆の身の上話。最愛の宝を守ろうとしたのにその宝物までも奪われてしまう。その後は、タクシーでは語らなかったが、同じ境遇の女性たちの権利を守るために力強く生き抜いた。下衆な表現をすれば、自分より不幸な人生を生き抜いた老婆に励まされた、という言い方もできるかもしれない。浮世に生きる誰もが本来持っている優しい気持ちが、荒波の中で崩壊寸前だった。それが老婆との交流を通して少しずつ解きほぐされていくのが、表情や行動で表現されているのが観ていて心地良かった。

「飽くまで最後のプレゼントはおまけ」
ほとんど一日メーターを動かし続けて生活に困っていた運転手。その報酬さえ要らないと思えるほど、老婆との交流から得たものは計り知れない。家族で生き抜いていく気持ちを取り戻したことが最大の報酬だったのだろう。この映画を鑑賞した後の気分が2024年に話題になった役所広司氏主演の「パーフェクト・デイズ」に通じるものを感じたのは筆者だけだろうか。

ブログ「地政学への知性」
humさんのコメント
2025年1月19日

胸にのこる作品の、胸にのこるレビューを読ませていただきました。

hum