「走馬灯」パリタクシー レントさんの映画レビュー(感想・評価)
走馬灯
街でバッタリ知り合った高齢者の方に気に入られて遺産を譲ってもらえることなんてないかな、なんて邪な考えを持ってる方は鑑賞をお控えください。私もそういう人間でしたが鑑賞中はそのようなことはつゆほども考えませんでした。
マドレーヌが暮らした50年代のフランス、いまやジェンダー平等が進んだこの国もこの頃はご多分に漏れず男尊女卑の女性が生きづらい時代。
どんなにひどい仕打ちを受けてもただ耐え忍んで生きなければならない女性たち。当時離婚が少なかったのはそうした女性たちが耐え忍んだことの結果であろう。
そんな時代にあってもマドレーヌは進歩的な女性だった。自分への暴力に耐えかねてというよりも、命より大切な息子に暴力をふるう夫が許せなかった。
彼女は夫に制裁を加えるが、この状況なら現代では禁固刑25年はありえないだろう。その後彼女は女性活動家としてその人生をささげる。
ただ本作ではそういう女性問題はメインではなく、あくまでもマドレーヌとシャルルの束の間の交流がメインだ。
袖触り合うも他生の縁、タクシー運転手というのはそういう点で物語性のある魅力的な職業だ。それを題材にした作品は過去にも多い。
特に本作はコロナ禍を経験した世界にとってタイミングの良い公開だった。ディスコミュニケーションのいまの時代、他者との交流に飢えた人々にとっては心を癒してくれる作品として。
日々、借金に追われ心に余裕がなかったシャルル。そんな彼がマドレーヌと出会い束の間を過ごし、心を癒される。
彼女を施設に送り届けたあと、彼にとって見慣れた街の景色はいつもと違って見えたはずだ。
マドレーヌとの交流でシャルルが癒されたように本作を鑑賞した観客も癒された。今のこんな時代だからこそ、より人々の心を和ませる作品として価値のある作品。
最初、不機嫌そうで、あまりよい人に見えなかったシャルルさんの変化を生み出したのはマドレーヌさんですよね。
そう考えると、マドレーヌさんはとても魅力的な人ですね。
「マドレーヌとの交流でシャルルが癒されたように本作を鑑賞した観客も癒さ れた」そうか。私も癒された一人なんですね。