「海のトップガン」沈黙の艦隊 健部伸明さんの映画レビュー(感想・評価)
海のトップガン
月並みだが、鑑賞してすぐ「海のトップガン」という言葉が浮かんだ。何よりも潜水艦内のセットが緻密であり、命令系統の描写が活き活きとして細かく『宇宙戦艦ヤマト』や『新世紀エヴァンゲリオン』世代には刺さる。潜水、浮上、海中のシーンの一部には、実際の潜水艦が使用されている。大沢たかおが、主役の原潜艦長・海江田四郎だけでなく、プロデュースまで務め、防衛省や海自に頭を下げた結果であった。
『シン・ゴジラ』同様、政府や官僚が右往左往するシーンはあるが、官房参与・海原大悟(橋爪功)に裏で牛耳られる首相・竹上登志雄(笹野高史)を挟んで、官房長官・海原渉(江口洋介)と防衛相・曽根崎仁(夏川結衣)が丁々発止と火花を散らし、外相・影山誠司(酒向芳)が茶々を入れる構図はより迫真であった。もちろん、30年前のかわぐちかいじの優れた原作漫画が元になっているせいでもあるが、それをアップデートして実写で再現した吉野耕平監督にも天晴と伝えたい。
連載は8年に及び、単行本で32巻にもなるため、今回は序盤、海江田の部隊が、核搭載疑惑のある最新鋭米原潜を乗っ取り、独立国「やまと」を宣言して、米軍第七艦隊との最初の二回の戦闘を切り抜けるまでである。
ある時は忍者のごとく無音で、またある時は朗々とモーツァルトを奏でながら自在に海を征く。戦闘は遂行し、敵を無力化することはあるが、死者は出さない。その行く末と真の目的を描く続編が、今から待ち遠しい。
東欧での戦争が相次ぎ、あるいは長期化している今の時代にこそ、見て、そして考えるべき作品であろう。
コメントする