「残念ながら…」沈黙の艦隊 町谷東光さんの映画レビュー(感想・評価)
残念ながら…
「潜水艦映画に外れなし」――。映画ファンなら聞いたことがある言葉だろう。
すぐ思いつく名画は、僕にとってはウォルフガング・ペーターゼン(1941-2022)の独映画「U・ボート」(原題・Das Boot)。
狭い空間で汗と油にまみれての海中戦、どんどん艦体が沈みゆくあの緊張…。
潜水艦映画の最高峰なんじゃないのか。
それと比べるのは酷かもしれないが…。
この映画に限らず、旧軍の軍隊はもちろん、現代の警察や自衛隊を描くならキャストからもそのイメージがスクリーンや画面から伝わるようにしないといけない。
本作で、それができている役者がどれだけいるのか。
そもそも、警察、軍隊(自衛隊)もので髪の毛を長くしている役者が多すぎる。
まあ物語なのでリアルさを追求する必要はないかもしれないが、僕の場合最初に、「軍人や警察官の面構えでない」ことが気になり、物語に入っていけない。
玉木宏がいい感じだと思うがそれにしても髪も長く、きれいすぎるのだ。
この映画では、「汚し」が足りない、足りなさすぎる。
大沢たかおがプロデューサーの一人として、各方面に働きかけ、作品化したことは評価したいが、その熱気が残念ながら伝わらない。
兄弟自衛官の安っぽいヒューマンストーリーも邪魔である。
原作漫画が話題になったのは30年以上前のことだが、当時も今も未読のままでこの映画を見たのとWikipediaを読んだ知識だけで書いている。
続編をリリースするとして(完成しているのか?)、序章がこの内容では期待薄である。
防衛省・海自からの協力を得た労は多としたい。実際の潜水艦の潜航、浮上の場面などはCGや模型では表現できないシーンだろう。
自衛官が反乱を起こすという、国としては認められないモチーフの作品に協力したのは時代の流れか。
それを忖度してか、防衛省側が要求してか、女性自衛官を登場させたり、自衛官の安っぽい内面も描いた…のかな。
そんなのは、いらないのよ。
くり返すが、U・ボートで描かれる死との背中合わせ、攻撃が成功した高揚感、帰還後に攻撃を受ける戦争の虚しさ…などなど、そういうものを描いてこその潜水艦、戦争「映画」なのである。
その域にまったく達していないので、★2つでも甘いかも。
封切りから3週間後でも東京・下町の映画ファンが集まるシネコンはそこそこの入り。制作費くらいは回収できるだろうか。