劇場公開日 2023年4月21日

「だから、法律職(隣接職)を扱う映画はもうちょっと正確に描いてほしいです…。」ヒットマン・ロイヤー yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0だから、法律職(隣接職)を扱う映画はもうちょっと正確に描いてほしいです…。

2023年4月22日
PCから投稿

今年131本目(合計782本目/今月(2023年4月度)26本目)。

まだお1人しか書かれていないし、ストーリーの関係上ネタバレ要素が異様なまでに多いので、ネタバレはできるだけ避けて通るようにします。

普段は超有能な弁護士、ちょっと外れると人を斬ったり…という主人公がテーマのアクション映画です。タイトルだけではわかりませんが、映画の最後に続編がありそうな描写があるので、遅かれ早かれ続編のお話は出てくるのでしょうね…。

個人的には、「ベイビーわるきゅーれ」(ノーマル版)に出ていた「秋谷百音」さんのファンだったので、その枠で見に行きました。その点は概ね満足しているのですが、タイトル通り「ロイヤー」(弁護士)と名乗る以上、「最低限の」調査はしてほしかった…という部分があります。

訴訟法を学習するのは行政書士試験以上の3つ(ほか、司法書士、弁護士(予備含む))だけになりますが、行政書士試験の資格落ちにここまで突っ込まれるというのも珍しいというか、「最低限の調査はして、展開を優先した」というより「何も調べていない」のではないか…(換言すれば手抜きではなく、アクション部分に寄せたために結果的にそうなった)というように思えます(この点、法律職(隣接職)を適当に扱う作者の利益が何もないため)。

ただ個人的には何であろうが資格持ちである以上、一応にも法律枠ネタであればその観点でみますので、そうすると「なんでそうなるの…」という部分はかなり多いです。
法律ワードこそあまり飛んでこないのですが、民事刑事ともに描写(裁判所の部分)はかなり多く、そこをちゃんと読んでいると、???な展開はかなり続きます。映画の趣旨上リーガルチェックを「正確に」受けてほしいとは思えませんが(逆にこの趣旨の映画でそれを引き受けて下さる方がいるとはちょと思えない)、あまりにも変なのもどうか…という部分です。

対比すると「シャイロックの子供たち」は「描写は極めて正しいものの、抵当権抹消登記といったきわめて特殊な語句を出して理解を困難にさせる」(不登法の話なので、司法書士を持っているか勉強をしているかしかわからないし、最低限民法の知識がないとわからない)映画の対極で、「本当に何がなんだか…」という状況で、これもこれでなぁ…という部分はあります。

ただ、それを「極端に減点する」のもフェアではないし(上述通り、本映画の趣旨上、法律的な観点での監修を断られた、というようにも思える)、どうにも採点の難しい映画です。

 採点は下記の通り、4.2を4.0まで落としていますが、それでも激甘採点で、下手すると3.5評価になりそうですが、3.5評価は過去に「樹海村」「DAUナターシャ」程度しか見当たらず、それと同レベルか…というとそれも認められないということによります(結局、ここのサイトが0.5単位でしか評価できない、という部分によると思います)。

 (減点0.4/民事訴訟の進み方(攻撃防御の方法について))

 ・ この部分が恐ろしく適当に描写されているので、特に民事訴訟においては攻撃防御(被告から原告への質問、逆にそれに対する原告への回答の一連のやり取りのこと。被告と原告が入れ替わった場合も同じ。詳しくは民事訴訟法参照のこと)が変なため、まともな裁判が進んでおらず、民訴法が定める裁判の進行のルールに反しているように思われます。

 (減点0.4/訴額とそれに必要な費用について、相場の理解が不足している)

 ・ 民事裁判においては、この映画でいうような金額であろうが、50億円であろうが1000億円であろうがそれを求める訴訟を起こすことができますが、濫訴を防ぐため、求める金額に応じて「申し立て手数料」というのがかかります。

 そしてこの映画でそれを求めると、少なくとも1000万円以上になります(映画内ではわかりませんが、一部認容で「この金額」だとしてもっと多くの金額を求めていると、この金額を超えます)。

 ※ 具体的な金額については映画内で描写がありますが、ネタバレ回避。

 1000万円というような金額を一時的にねん出できるというのも相当な状況であり(到底個人では無理でしかない。まさか、ロト6か何か当たった方の裁判訴訟が趣味な人?)、この部分は明確に「民訴法が定める申し立て費用を考えると明確に現実的に妥当ではない」点は言えます(給料の未払いうんぬんでは、100万円などとしてもそんな金額にはなりません)。

 ※ かつ、「この金額」で求めていてその支払いを命じられると、弁護士はいわゆる報酬を請求できますが(認められた金額の何%と、ある程度差はありますが、決まっています)、確定申告どころの騒ぎではないように思えます(確定申告以前に、そんな大金をどうやって管理するのかという現実的な問題が起きてしまいます(銀行だって困ります))。

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 …というか…。
 弁護士もの(あるいは法律隣接職(司法書士、行政書士))を扱う映画で「ある程度描写が妥当ではない」点があるのは仕方がないとは思うのですが(この点がむしろ厳密というほうが「ある意味で怖い」)、ここまで無茶苦茶で行政書士の資格持ちにここまで突っ込まれるというのは…。まぁお察しというか、どうしたらこうなるのか…というため息しか出ないです。

 ただ、「大怪獣~」や「それがいる森」のように「積極的悪害に基づいて支離滅裂」というほどには認められないので、過去の採点基準から4.0をギリギリつけただけで、「法律系資格の持ち主の一人としては」激怒度は極めて高いです。

yukispica