劇場公開日 2023年4月28日

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「【”精神疾患者の哀しみを癒し、希望に変える場。それが巴里、セーヌ川に浮かぶ2階建ての木造船アダマン号なのである。不寛容な現代社会の中、この作品には優しさと希望と共存の大切さが描かれているのである。】」アダマン号に乗って NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”精神疾患者の哀しみを癒し、希望に変える場。それが巴里、セーヌ川に浮かぶ2階建ての木造船アダマン号なのである。不寛容な現代社会の中、この作品には優しさと希望と共存の大切さが描かれているのである。】

2023年7月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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知的

幸せ

■パリの中心地、セーヌ川のきらめく水面に照らされた木造建築の船・アダマン号。
 デイケアセンターであるその船は、精神疾患のある人々を無料で迎え入れ、音楽や芸術など、創造的な活動を通じて社会と再びつながりを持てるようサポートしている。

◆感想

・今作には多くの精神疾患のある人々が登場する。
 ロックを格好良くギターでつま弾くオジサン。
 絵が巧い少し太ったオバサン。
 18歳で発症し、56歳になるまでその病と闘う何処か陽気なオジサン。
 発症後、息子と離れた事に悔いを残す黒人女性。
 多くの人が、安定剤を呑んでいるようであるが表情は明るい。

・スタッフの方々の彼らに対する接し方が素晴しい。
 1.素直に話を聞く。(傾聴の姿勢)
 2.一人の人間として彼らと接する。(個の尊重)
 3.彼らに話しかける。彼らの気持ちに寄り添いながら。そして否定をしない。(肯定的態度でのコミュニケーション)

■私事で恐縮であるが、20年前、同じ職場の先輩が精神を病んでしまった。仕事の納期が厳しすぎてアウトプットを出せずに、分裂病になってしまったのだ。
 一番若く、人事歴もあった私がその先輩を心療内科に連れて行ったが、医者からは冷たく”精神病院に連れて行ってください。”と言われた。
 そして、私は社用車で遠くの山の中に有る精神病院に先輩を連れて行った。
 医者は軽く先輩の症状を観察し、鉄格子のある小さな部屋に先輩を収容した。
 私は忙しい中、一週間に2度ほど夜中、精神病院に行って先輩の様子を一月間伺った。
 そして、先輩は一カ月後、ご両親に連れられて退社し、故郷に帰った。
 ご両親は私を責める事無く、深々と頭を下げお土産まで渡してくれてタクシーで帰られた。
 私は、申し訳ない気持ちで一杯になってしまい、駅で泣いてしまった事を苦々しい気持ちで思い出す。

・というトラウマがあるため、この映画には救われた。ある病院のデイケアセンターだというアダマン号には病院が患者の様子を見ながら、そこで患者に対して癒しの空間を与えているのだろうな、と思ったのである。
 そこには、精神を患った人を社会から排除する事無く、個を大切にして、患者に共感しながら、人間として扱っている姿が描かれていたからである。

<このドキュメンタリーには、現代社会に蔓延る姿勢とは対極にある、多様性を受け入れる文化が描かれている。
 もしかしたら、撮影中にはイロイロと問題が発生したのかもしれない。
 だが、ニコラ・フィリベール監督はそういう場は映さない。
 今作からは、デイケアセンターのスタッフの人々が患者一人一人の違いを認め、共存することの豊かさが伝わってくるのである。
 不寛容な現代社会の中、この作品には優しさと希望が描かれているのである。
 私は、今作は佳きドキュメンタリー作品であると思います。>

■フライヤーには、審査員長であるクリステン・スチュワートの”本年度のベルリン国際映画祭で金熊賞をこの作品に贈るのは光栄です。”と言うコメントが書いてある。
 クリステン・スチュワートのファンとしては、とても嬉しい一文でありました。

NOBU