劇場公開日 2023年4月28日

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「フランスの精神科医療」アダマン号に乗って ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5フランスの精神科医療

2023年6月23日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

日本で心の療養施設というと人里離れたところに立地しているという印象だが、フランスのデイケアセンター・アダマン号はパリの中心地セーヌ川に浮かぶ木造建築の船だ。その船は係留されていて、まるで今時の図書館か美術館のような外観をしている。日々、精神疾患のある人々を無料で迎え入れ、彼らに時間と空間を提供する場となっている。
そこで繰り広げられる音楽演奏会や絵画鑑賞会などの文化活動は、神経が繊細過ぎるゆえに病んでしまった彼らの心に癒しをもたらし、社会との接点を取り戻すきっかけをつくっていく。そして、働く看護師や職員は患者たちに寄り添い続ける。
「人間爆弾」というフランスの人気ロックバンド・テレフォンのヒット曲を熱唱する男が冒頭に登場する。この曲はこの映画の主題歌のごとく聞こえた。「人間爆弾は君が持っている。君の心の近くに起爆装置がある」「自分の人生を他人に任せたら終わり」「誰も自分自身を手放すべきではない」歌詞にインパクトがあり、彼らの心の奥底にある感情を代弁しているようだ。
スーパーの向かいのごみ箱に行って、外見は多少傷んでいても品質は問題なさそうなフルーツをゴム手袋で収穫し、みんなでジャムやムースをたくさん作るシーンは、SDGsに取り組んでいるように感じられ、微笑ましかった。
患者たちが、なぜ障害を持つに至ったか、普段はどういう生活をしているのか、その背景も知りたかったところだが、この作品は二コラ・フィリベール監督がパリの精神科医療を紹介する3部作の1弾目ということなので、次の作品ではより深堀した内容を期待したい。
ナレーション、BGMゼロという静寂さも、ドキュメンタリーらしい臨場感のある雰囲気を醸し出していた。

ミカエル