「ラベリングなしに人と接することの重要性と難しさの両面を理解させてくれる一作」アダマン号に乗って yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ラベリングなしに人と接することの重要性と難しさの両面を理解させてくれる一作
長年社会的に少数派とみなされる人々をフィルムに収め続けてきたフランスのドキュメンタリー映画監督、ニコラ・フィリベールが本作で取り上げたのは、フランス、パリの中心地セーヌ川に建てられた船型の木造建築「アダマン号」の日常でした。
精神的疾患を抱えた人々のためのデイケアセンターとして機能しているこの施設が、どのような人々によって、どのような経緯をたどって設立されたのか、そんな前置きもなくカメラは、アダマン号の窓が開かれると同時に船内に入っていきます(結末でごく短い解説が挿入されます)。本作が記録している映像はほぼ、アダマン号の中で人々がどのように活動し、過ごしているのか、という日常の活動風景です。
デイケアセンターとは言っても、職員も利用者もそれぞれ自由な服装をしていて、立場の区別がつかないどころか、アダマン号の会計業務などの運営にも、利用者自身がかなり関わっていることも分かってきます。時折挿入される風景描写から、少なくとも撮影期間が一年に及んでいることが分かります。その間カメラは過剰に人々に密着することもなければ必要以上に距離を取ることもなく、ただ状況を見守っています。
デイケアの一つのあり方を見せてくれるという点で、非常に興味深い作品です。しかし作中ある男性がつぶやくように、福祉や人権意識が進んでいるように思えるヨーロッパでも、彼らは日常における生きにくさに向き合わされており、だからこそアダマン号のような施設が必要である、ということも分かってきます。
フィリベール監督は本作をアダマン号に関する三部作の一作目と捉えているそうです。これからどのような展開が見られるのか、非常に期待したい作品です。