「川の上の桃源郷のような」アダマン号に乗って 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
川の上の桃源郷のような
二コラ・フィリベール監督は、普通とそうでないものとの境界線を緩やかに破壊するのが上手い。彼のカメラのたたずまいは何かを暴こうという前のめりな姿勢にならず、近づいて共感しようとしすぎず、そこに居合わせて観察し、観客の眼の代わりになる。観客は、そのコミュニティの住民の一人となったような気分にさせられる。
本作は、セーヌ川に浮かぶデイケアセンターの日々の暮らしを撮影した作品だ。精神疾患を持った人々がここを訪れ交流し、思い思いに日々を過ごしている。絵を描いたりコンサートをしたり映画を鑑賞したりという文化活動を通じて社会とのつながりを回復していくことを狙いにしている施設だ。
フィリベール監督には「すべての些細な事柄」で精神クリニックでの文化活動を撮影していたが、本作の手触りがあの作品に似ている。本作も「すべての些細な事柄」も、普通の人間とこうした施設にいる人々の垣根などほとんどない、人間はみなちょっと弱くておかしくて愛おしい存在だと描いて見せてくれる。この映画の穏やかな空気にいつまでも浸っていたくなる。
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