「余白のなかで生きていく」アダマン号に乗って atsushiさんの映画レビュー(感想・評価)
余白のなかで生きていく
余白のなかに、ひとの生きる力と想像力、共感力が宿る。ムダを省く効率化が求められる世界には、そのすべてが失われていく。センシティブな人びとは、その状況にとても敏感に反応する。
ナレーションがないことも、作品を観る私たちに考えるための余白と自由を与えてくれる。
同じ船に乗船しているが、行き先も目的も一人ひとりが違うかのよう。でもどこかに余白のなかでの連帯感がある。
彼らはいい意味での「俳優」だ。この作品で自分を表現し、一方で自分と違う別の人間を演じている。翻って「本当の自分とは何か」、考えさせられる。
登場する彼ら一人ひとりがとても個性的。病いの程度に差異があり、その対処法も異なるため、効率を重視する画一的な治療施設では彼らの病いはすくわれない。
日本でもさまざまななユニークな試みが一部で始まっている。しかし多くの精神医療体制は郊外の施設に押し込め、社会から「不可視化」する。
「開かれた」医療。フランスだから出来ることと安易に考えてはいけない。精神医療に携わる多くの人に観てほしい。
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