「監督の思惑どおりにモヤモヤする。」パスト ライブス 再会 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
監督の思惑どおりにモヤモヤする。
一応ネタバレということにしたけど、最後まで何か事件があるワケでもなく、淡々と物語は進んでいく。
韓国という国家特有の習慣やしがらみの中で、今の自分を作ってきたヘソンと、あくまで自らの意思で決断し道を切り開いてきたソヨン。
そしてソヨンの夫であるアーサー。
小学生時代に好きになった女のコに、離れ離れになって以来、大人になっても(結婚を考えているパートナーがいるのに)いつまでも想いを寄せるヘソンの気持ち悪さはまあ、置いておくとして。
ソヨンが自宅にヘソンを連れて行ってからのバーでの一連。
もちろんそれが作り手の「演出」であって、それ自体がメッセージであると知った上で、それでもやっぱり
「それはないよ!」と言わずにはいられない。
ソヨンが悪気ない言葉や態度で男性二人の心に見えない傷を付けていく姿を、やはり私は胸が苦しくて見ていられなくなる。
ヘソンへの嫉妬を見せるアーサーにソヨンが言った「安心して。私は男よりも仕事を選ぶわ。」という言葉。
アーサーがベッドで「もし違う相手と出会っていたら、ここに寝ているのは僕ではなかったのかな」とソヨンに問いかけても、彼女は明確には答えない。
アーサーは「どんなことがあってもあなたを選ぶわ」と言って欲しかったはずなのに。
ただ、彼女は自分に正直なだけ。
欺瞞や体裁を繕うことはしない。
でも…
ソヨンとヘソンのバックショットにアーサーの肘だけを映し、アーサーを映す時は二人の位置から見た視点で独りにするとか。
ウーバーまで送っていった彼女を待っている間のアーサーの心穏やかではいられない気持ちとか。
なんて意地悪な。
と、こういう観客の感じるモヤモヤも、詰まるところ「作り手の意図」なワケだ。
あの最後に黙って見つめ合うシーンとか、モヤモヤの最たるもの。
このモヤモヤが、観賞後私には「嫌な感じ」ではなく、心地よい映画体験だった、と振り返っている。
ただ、やっぱりソヨンは酷いと思う人が多くてもしょうがない。
そういう絶妙なバランスの上にある映画。