「涙がこぼれる、たった一言」パスト ライブス 再会 natsukiさんの映画レビュー(感想・評価)
涙がこぼれる、たった一言
公開前からずっとずっと観たくて、やっと観ることが出来た。
ただただ切ない。
感情の、表せられない涙がこぼれる。
悲しいとも違う、感動とも違う、心の奥深くの何かに触れる涙。
誰かのレビューや評判を聞いて期待値MAXで臨んだので、
静かで美しいふたりの物語を割と淡々と観ていた自分がいたのだけれど、
最後の最後、ずっとどこか遠慮がちな目を向けていたヘソンが、ノラを真っすぐに見つめてかける言葉。
あの言葉を聞いた瞬間、すっと心に入り込んで、どうしようもない気持ちでいっぱいになって、涙を止めることが出来なかった。
タクシーが来るまでの短くも長いあの瞬間、その時のふたりの表情、ふたりの間の距離、ヘソンが振り返ったと同時に一瞬はさむ過去のふたりの姿……なんて素晴らしいシーンなんだろう。
NYで強い女性に成長したノラが子供の時のように泣きじゃくる姿を見て、もう、ほんと、運命って、縁って、人生って何なんだろうと心に来た。
今までの自分の選択や現在の幸せを後悔することは絶対にないけれど、自分ではどうしようもできなかった一つ一つのこと、自分という人間、捨てることはできない大切な志や意思、口から出た言葉、頭に浮かんだ考え、そんな自分を形作るすべてについて思いを馳せてしまう感じ。
きっとノラの夫は、ノラがその涙を見せてくれたことにどこかで心救われただろうと思う。でもそのきっかけは自分ではない、自分は共有することはできない、不可侵の、思い出や想いや縁。
その夫の切なさも想像できてしまって、そんなところにも涙腺が緩んだ。
前世、今世、来世、繋がっていく縁、
もどかしい反面、諦めにも似た“希望”がある。
素敵な考え方だ。
ノラとヘソンはきっともう会うことは無いだろうと思う。
連絡をとることもないかもしれない。
時々SNSに「いいね」をしあったり、お互いの名前をどこかで目にして近況を知る程度になるかもしれない。
ふたりはこれからどんな人生を送るのだろうか。
どんな選択をして、どんな人と出会うのだろうか。
ヘソンの最後の言葉をノラは忘れないだろう。
いや、忘れてほしくない。
あの瞬間をヘソンはきっと時折思い出す。
思い出してほしい。
そしていつか必ず、ここではないどこかで、再会を果たしてほしい。