「大人だから、言葉にできないから、沈黙で。」パスト ライブス 再会 おひさまマジックさんの映画レビュー(感想・評価)
大人だから、言葉にできないから、沈黙で。
名作だ。
クラシックだが古臭くはない、現代のかたちにして。
なんとも切ない、ほろ苦さ極まる作品だった。
しかし悲壮感はなく鑑賞後は温かい気持ちが心にのこる。
「今はもう大人」ノラが言う。
大人・・・? そう、大人だよ。
ほろ苦いというより、本作で描かれた大人の恋事情は二人の男性にとっては「水なしエスプレッソダブル」ぐらいの、超ビターな心境のはず。にもかかわらず、ああこのコクいいね、、こんな人生もあるよね、くらいに装うのだ。大人だから。クゥーッッ!まいったまいった!
ノラさんは夢を追いアーティスティックなキャリアを重ねていて、多分ヘソンの気持ちは気づいてても半分くらい。あんなことあったよね程度に、いい感じに過去化している。それに比べてメンズふたりの、まあ女々しいとは言わないが、ロマンチックなのはむしろオトコの方なのねと。自分の胸に手を当ててみると……さてどうでしょう?(^_^;)
ヘソン ⇔ ノラ ⇔ アーサー
この三人はあくまで点と線だけで繋がっていて、決して三角関係にはならないのだ。おとなだから。でも食事会のあとメンズ二人だけの(おそらくお手洗いでノラが席外した2~3分の出来事)超絶気まずいタイミングで、「良い」三角関係にしようと努力する姿が、何とも涙ぐましかった。オトナダカラなのだ~(T_T)
そんなこんなが終始、続いて悶絶するほかなしだ。
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映画として上手いな、と思うところが多々あった。
ノラとアーサーは税関に説明することで。
ヘソンは友人たちとの居酒屋トークで。
12年で移り変わった環境、事情のご説明をサラッとやっつけてしまう。
だらだらと冗長・長尺な作品が多い昨今、こういった面は良き良き。
私がこの作品で最も素晴らしいと感じたところは、カメラワーク。
物語中盤あたりから…おや?これは…。シーン毎の切り取り方の綺麗さ「ムービージェニック」な表現に気づき、それからは最後まで美しいカメラワークに目を奪われていた。
ニューヨークのちょっとした街並み、風景や環境の切り取り方が、そのままフォトグラフィックな表現というか、NY写真展をみているかのような気持ちになれた。しかも、ただ綺麗というだけではなく、物語の進行にあわせ登場人物のそのときの心境を上手く切り取り、風景シーンに代弁をさせていたように感じた。
「さよなら」と子供時代のヘソン。
道が二手に分かれていく。これから巡り合うことは無いのかもしれない。
水たまりに逆さに映る赤信号が、何かの拍子で広がった水の輪にかき消されていく…
例だが、このような表現が作品内にたくさん散りばめられていた。
陰影も駆使していた。
セリーヌ・ソン監督、おそるべしである。
鑑賞後どうしても気になったので当サイトで調べると、この作品の映像はシャビアー・カークナー氏の撮影によるもので、『Small Axe』という作品では過去に撮影賞も受賞されたとのこと。Small Axeの予告編をみると、ウン、やはり以前からその腕前はあったのかなと想像がつく感じだ。
パストライブスでは是枝裕和監督の技法を参考に"スウィンギン・カメラ”という手法を駆使したらしい。なるほど、これにはとても納得した。
この作品を通じて上手に描かれていった、登場人物の心の機微の表現。
ラストシーンでは最高潮に達する。
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ウーバーに乗るまでの沈黙。
横並びだった体の向きが、どちらともなく互いに正面を向く。
見つめ合いは無言。ただひたすらに、見つめ合い、何も言わない。
このあたりの表現、凄い。
ハグは、愛情のあるそれでなく、気持ちを圧し殺した友情のハグで。
キスは、しないか。そうだよな。この作品、どこまでも物語を陳腐にはさせない。
「来世でまた会おう」というヘソン。この台詞。言えるか~~!?
今が past lives(前世)ってことにして無理矢理、気持ちを抑えるヘソン。
ウーバーを見送り、アパートまで歩き戻るノラ。
戻るまで100歩とあっただろうか。
この、ほんの短い間、ヘソンの人生でもアーサーの人生でもない、ナヨン=ノラだけの時間。ヘソンの本当の想いを強く理解し、涙する。泣いたのは、泣き虫のナヨン?ノラは泣かないからね。
玄関先で待つアーサー。
ああ、やっぱり部屋にいられず見てたんだなアーサー。こちらも切ないのう。
一連の流れを歩道と平行してワンショットで追いきるカメラ…
素晴らしいね。
12年ごとに出会うけど、結ばれない。
12年前=前世のような表現、皮肉。
これがこの作品の最大のロジックか。
良い映画との出会いに感謝したい。
英語字幕でも勉強になりますが、実写映画よりアニメ映画の英語はかなり聞き取りやすいです。日本の英語教育じゃ、英語はなかなか上達しませんね。😩 コメントありがとうございました。
日本を出ると日本の良さに気付ける一方で、日本の堅苦しさも同様に感じるので、いい経験になると思います。
ぜひ、一緒に字幕なし映画にチャレンジしてみませんか?www バンクーバーも住めば都です。
韓国人に限らず、バンクーバーは世界中から移民が集まっていますね。アメリカドルほど高くないし、アメリカほど人種差別ないし、バンクーバーは雪も降らず住みやすいです。アジア系スーパーもたくさんありますし、食材はあまり困らないです。
レビューを読んだ後に、よい映画を見た後のように心が豊かになることがあります。また見てみたいと思ったり、見たとき以上に心に残ったり。
そんなレビューでした。ありがとうございました。