「今年を代表する傑作」老ナルキソス 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
今年を代表する傑作
今年は『エゴイスト』という傑作もあったが、本作もそれに劣らない傑作だ。両作品に共通していることは、男性の同性愛を描いていることはもちろんだが、お金で繋がる人間関係を否定しないと言う点にあるように思う。売春的な行動を、両作品ともとがめる雰囲気は一切ない、それどころか理想の相手に出会うきっかけがお金から始まる関係だったりする。異性愛ではこのように軽やかにそこを乗り越えることができない。「身体を売る」ということに対する差別が異性愛の場合よりもはるかに薄い。(『エゴイスト』の場合、その金で人間関係を作ることを母親に対してもやる時、その気まずさが浮き彫りになっていたが)
主人公・山崎に買われる若い男性・レオは、パートナーと暮らしている。そのパートナーはパートナーシップ制度を検討しているが、レオはどうにも乗り気ではない。社会の中で生きることと、社会から逸脱の自由を享受することは両立するかどうか、そういう問いがこの展開の背景にあるように思った。
山崎たちの世代は、社会が同性愛を認めなかったので逸脱するしかなかった。しかし、そこにしかない豊さもあった。その豊さを失わずに社会から差別を無くすことの可能性を模索している、この映画にはそういう態度があるような気がした。
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