劇場公開日 2023年4月28日

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「自由の香り」セールス・ガールの考現学 penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 自由の香り

2025年11月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

モンゴルは、平均年齢26歳の若い国です。
首都ウランバートルを歩いてみても、街を歩いている人は、ほとんどが若い人で、私と同じ年齢層(60歳台後半)のひとと出くわすことはなく、ホテル近くのコンビニのイートスペースは満席で10人ほどが一列に並んでいましたが、そのすべてが25歳前後と思しき若者たちでした。モンゴルは日本の4倍の国土に、350万人しか国民がいない国ですが、教育水準は高く大学進学率は既に50%を超え、日本とあまり変わらないのだそうです。

そんなモンゴルでも近代化が進むにつれて、カティアのように豪華な邸宅に居住し、ドイツ車を乗り回し、古今東西の大作家の性嗜好にも通じ、高価な酒を飲みながら、一人でピンクフロイドのレコード「狂気」を聞く時間をこよなく愛している「すべてを手に入れている」、でも心に傷を抱えている偏屈な成功者がいます。その反面狭い団地に住み、政府や会社に愚痴をたらしながら、家族で仲良く生活しているサロールのような庶民もいる。貧富格差を示すジニ係数は現在日本とあまり変わらない水準まで悪化しているのだそうですが、それでは、ソ連の平等だった時代に後戻りすべきなのか?
この問いは、現代モンゴルの一つの命題になっているようなのですが、この作品は、孤独で偏屈ながらも、「自由」のもつ意味をしっかり理解している人間であるカティアとの交流を通じ、サロールが自分らしく生きることの大切さを学んでゆく成長物語になっていて、その問いには明確に「否」との回答を与えているように見えました。

映画の舞台のほとんどはウランバートルの近代都市ですが、二人がモンゴルの大草原で寝そべり、楽しそうにじゃれ合っている姿がとても印象的で、やはりモンゴル人の心の故郷はいかに近代化が進んでも、それは青々とした大平原のかぐわしい香りなのでしょう。
そしてそれは同時に「自由の香り」なのだと思いました。

pen
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