「二人にとってのファイアバードは、心の中でだけ翔ける隠匿の存在だった」Firebird ファイアバード Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
二人にとってのファイアバードは、心の中でだけ翔ける隠匿の存在だった
2024.2.12 字幕 MOVIX京都
2021年のイギリス&エストニアの映画(107分、R18+)
原作はセルゲイ・フェティソフの自叙伝「ローマンについての物語』
ソ連領エストニアにて、パイロットと恋仲になった二等兵の苦悩を描いた恋愛映画
監督はペーテル・レバネ
脚本はペーテル・レバネ&トム・プライアー&セルゲイ・フェティエフ
原題の『Firebird』は、劇中で主人公たちが感激するイーゴリ・ストラヴィンスキーのオペラ『The Firebird』のこと
物語の舞台は、1900年代前半のソ連領エストニアのとある基地
そこで二等兵として従軍しているセルゲイ(トム・プライヤー)は、友人のヴィロージャ(ジェイク・ヘンダーソン)、ルイーザ(Diana Pozharkaya)とともにハメを外して遊ぶのが日課になっていた
国境が近いこともあり、司令官のクズネツォフ大佐(ニコラス・ウッドソン)やズベレフ少佐(Margus Prangel)はピリピリしていて、規律を重んじる基地としての機能を重要視していた
セルゲイは任期が終えたら地元に帰ろうと考えていて、大佐はそれを惜しんでいる
少佐はKGBとのつながりがあり、常に全隊員を監視していて、ルイーザは軍の通信を記録する係として赴任していた
物語は、その基地にパイロットのローマン・マトヴィエフ大尉(オレグ・ザゴロドニー)が赴任するところから動き出す
彼はセルゲイを気に入り、ルイーザは彼に首ったけになっていく
ヴィロージャは「セルゲイがルイーザのことを想っている」と感じていたが、実はセルゲイは同性愛者で、二人の接近を違う角度で見ていた
ある日、ローマンに指名されて出向したセルゲイは、そこでオペラ「ファイアバード」を一緒に観劇する事になった
セルゲイは劇に魅了され、任期が終えた後にモスクワの演劇学校に進むことを決める
そして彼は、ローマンにモスクワに来た時には尋ねてほしいと懇願する
ローマンはその言葉を受け取ったものの、二人の仲はKGBの標的になっていたのである
物語は、セルゲイとローマンの悲恋を描き、これが主人公セルゲイが後に記した自叙伝として世に残る事になった
それを映像化したのが本作であり、脚本にもセルゲイ本人、セルゲイ役を演じたトム・プライヤーが参加している
実に生々しい描写が多く、かなり美化されているように思えるのは、その思い出が記憶に定着している過程と似ているからだろう
本作にはパンフレットが発行されているのだが、これがまた規格外的な大きさになっている
サイズで言えばB4くらいの大きさになっていて、ぬいぐるみを入れる用の袋を購入することになった
なので、パンフレットの購入を検討している人は、かなり大きめのカバンなどを持参した方が良いのではないだろうか
いずれにせよ、禁じられた愛の中でせめぎ合う三角関係が描かれ、それが悲劇的な結末の中で向かう先を見失ってしまう物語になっていた
ルイーザとローマンの結婚は「愛はある」とは言うものの、彼女がそれを信じられるとも思えない
また、KGBへの密告が親友というところも罪深く、それを公言することもできない時代性が伝わってくる内容だったと言える
軍隊は規律を重んじる場所で、それが異性間でも許されないものもあるが、そんな中で、死と隣り合わせにある者たちの素直な衝動はこれぐらい激烈なものだったということだろう
濃厚なシーンは多いものの、R15+ぐらいだと思われるので、抵抗のない方は鑑賞しても良いのではないだろうか