劇場公開日 2023年4月29日

「自分は人間であり、敵もまた人間である」私、オルガ・ヘプナロヴァー redirさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0自分は人間であり、敵もまた人間である

2023年6月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

静かに進む物語。バー、ダンスホールに流れる以外は音楽もない、エンドロールもずっと無音。本を読み日記や手紙を書くオルガの暮らしにも音楽はない。
チェコの寒々しい風景も静かでオルガが運転する車の爆音あとは静かな会話と時々激昂するオルカと周りの人。
知り合う女友達はうさを晴らすように同性愛にふけり、誰もが最後は関係性もしくは経済性の損得なのか。
そんなことさえも意に介さないくらいの孤独と絶望感。施設でしこたま同室の女の子たちに殴られ蹴られるほかは親からの暴力暴行はうつされないがオルガの言説、着ているもの、話し方、歩き方から若い人生に受けてきた社会的不同意、虐待を感じる。社会への、人間への復讐という無差別殺傷事件、轢き殺し。実家に火を放ったり刺しに行くわけではないところに、親が巻き込まれなかったことを悔やむとのちに述べているが、自分とつながりがあるものをたちぎれないと感じる。母親は、最初のシーンで自殺はすごい勇気がいるあなたには無理と言った。
父親に殴られたとか父親は誰か、私は違う父親の子というシーンが続くか。これは母と子の愛と憎しみと無関心の物語だろうか。
政治性のないアナキズム。歩き方から滲み出る孤独と意志。
常に人は孤独であるが、かんぜんにこどくにはなれない。人は社会システムから如何様にも逸脱しようとし逸脱するが、社会システムは離してくれない。

redir