「類似作品にあったこととなかったこと」もう、歩けない男 てつさんの映画レビュー(感想・評価)
類似作品にあったこととなかったこと
浅いプールに飛び込んで頸椎損傷をした学生無年金障がい者の話をよくきいてきた。本作で事故に遭う直前にも恋人が心配する転落があり、少し緊迫した。池に落ちた後、追随した愛犬が、退院して帰宅したときには直ぐに懐かなかったのは、少し違和感があり、介助犬という発想もなかったようだ。漫画『リアル』では、失神するほどの直立体位からリハビリを始めていたが、ここではなかった。入院患者仲間から「気取り屋」と呼ばれるように、リハビリにも熱がはいらない姿勢は、24時間テレビドラマ『ふたり』の主人公にも当初あったが、心を入れ替えてリハビリに励む場面もなく帰宅し、家族や一人目のヘルパーには我が儘放題だった。私が長くお付き合いをした頸椎損傷の友人は、首から下が全く動かず硬直していて、体を抱えるのが大変だったが、本作の主人公は、手動車いすの操作ができるほどの損傷部位だったようだ。本作での二人目のヘルパーは、主人公の我が儘を軽くいなし、訓練に前向きにさせるとともに、性的な能力回復にも目を向けさせているところは、『最強のふたり』や『セッションズ』の介助者とも共通していると思えた。病院で主人公を「気取り屋」と呼んでいた仲間が手動運転装置の自動車をみせに来たときには、乙武洋匡氏が自動車運転を披露したときのような驚きを蘇らせた。しかし、スロープ作動が上手くいかず、短気を起こして電動車いすで帰宅しようとして、電池残量が少なくなり、途中で盗充電しようとしてプラグでつないでいたのは、日本で見慣れた充電器とは異なるようである。そのように社会復帰を進めていたにもかかわらず、自殺を思い詰める場面は、『ウイニング・パス』を想起した。そこでは、性行為不能な脊髄損傷者も子づくりが可能であることが示されていたように思うが、本作では頸椎損傷者でもバイアグラによって性行為だけでなく、それを通しての子づくりが可能であることも示していると考えられる。ただ、恋人と再び性行為を成功させながらも別れに到ったところも、『セッションズ』と似ている。元気だったときの職場の上司が、「無形資産」という表現を取りながら、温かく復帰を迎え入れる姿勢も、『ふたり』と共通している。『ふたり』と『ウイニング・パス』では、障がいにもかかわらず愛を貫く物語だったが、本作ではそうならなかったのが残念だった。