不思議の国の数学者のレビュー・感想・評価
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数学を美しく語れるが、人生は不条理だった。
脱北した天才数学者と
挫折寸前の男子学生の生き様を描いた
泥臭い人間ドラマだった。
無機質な数学には何の匂いもないが、
学問を成績や価値などの実利に評価し出すと、
学問がパンドラの箱となって有象無象の化け物となる。
学問と思想の自由を求めて脱北した天才数学者ハクソンは自分の正体を隠したまま、名門私立高校の夜間警備員として働いていたが…
無愛想なハクソンは学生たちから避けられていたが、
ある日、数学が苦手なジウから数学を教えてほしいと頼まれる。
正解だけが全ての世の中に疑問を感じていたジウに問題を解く過程の大切さを教える中で、
ハクソンの人生に思わぬ転機が訪れる。
天才数学者でさえパンドラの箱を開けずにはいられなかった。
そしてさらに、数学でそんな不条理な人生を検算証明できてなかったことが映画作品として腑に落ちない結末であったことは残念だ。
故に星四つです。
数学的勇気
数学者のドラマはフィクション、ノンフィクションを問わず美しい。数学者を演じるのは名優チェ・ミンシク。
エリート高校の夜間警備員の正体が、脱北した天才数学者だったという水戸黄門的展開!
韓国だからこそ成り立つポリティカルサスペンスの匙加減も絶妙。
物語は数学が苦手で脱落寸前の少年のエピソードから始まる。なんやかやあって数学者がこの少年に数学の手ほどきをするわけだが、解法を教えるのではなく数学的思考を叩き込むのがエレガンス。
そして物語後半では何のために数学を学ぶのかがテーマとして、そして生き様として浮上してくる展開がアツい。
落ちこぼれ少年がメンターを得て成長する王道成長譚としても楽しめる。
母1人子1人の貧しい家庭の出の少年と、脱北後に息子を失った数学者。格差社会の韓国で低く見られがちな2人が、歳の差を超えた友情を育んでいく様が感動的。その結晶とも言える終盤のチェ・ミンシクのスピーチが素晴らしい。
個々個々問われる知識が学部レベルでやや厳しい…。
今年137本目(合計788本目/今月(2023年4月度)32本目)。
タイトル通り、数学をテーマにした韓国映画。テーマとしては数学というだけであり数式や定理がバリバリ出てくるわけではないですが、日本と韓国では高校(に相当するもの。以下、日韓で文化制度が異ならないものは国名省略)で扱う内容が異なり、映画を見ていると韓国で扱う範囲は日本でいう学部1年(理系共通)程度であるようです。
もう一つのテーマとして「学問の自由」という論点があり、映画内では明示的に示されていませんが、「学問の自由」を憲法や法律で定める国は、多くの国において「学問の自由」のその性質上、その主体が学生や生徒児童になるため、その当事者の目線に立った「子どもの学習権」という概念があり、日本はこの立場に立ちます(映画は韓国のものですが、韓国においてもそのことは共通で、そのことは映画内でも明示されています)。ただ、この映画で描かれる韓国と「韓国の北側の国」(便宜上、国扱い)ではその「学問の自由」は明確にその保護領域が違うことも映画の描写から明らかです。
個人的に気になったのは、やや高度な数学の知識が求められ、日本基準では大学(理系)の学部1年の理系共通教養程度の知識が求められる点にあるのだろうと思います。文系の方が見ても一部のセリフがかなりわかりにくい点はどうしてもあります。中には「こっそりものすごく高度な話を裏でちらっとやっている」部分もあり、全部追うのはリアルで学部や大学院で数学科卒のレベルでないと難しいと思える点もあります(私ももう20年くらい前ですが…)。
ただ、個々「文系の方にはやや厳しい描写(趣旨のわからない描写が出てくる)が多い」点は言えても、映画内でいわれる「π(円周率)ソング」など美しい描写もあり、今週は本数も少ないので、韓国映画が好きならおすすめの一作です。
採点に関しては下記を考慮して、4.4を4.5まで切り上げています。
(減点0.2/積分と極限の入れ替えについての描写)
・ 序盤の学校で出てくる部分で黒板でちらっと出てくる部分ですが、この入れ替え(積分と極限の入れ替え)は、無条件にできるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります(「アルツェラの定理」。「アスコリ・アルツェラの定理」ではないので注意)。ただし、日韓ともに、高校の微積分で習う範囲の一般的な関数では入れ替えは通常可能です(が、このことは説明が必要。映画内で「答えよりも結論にいたる理論が必要」と言っているため)。
(減点0.2/「イプシロン」の指す意味)
・ 映画内では微妙にごまかされていますが、「子供」や「ボールペン」などの描写で登場します。ここは前提知識がないとわかりにくいですが、日本の学部1年でいう「ε-δ論法」でいうイプシロン(ε)のことであることは知識がわかります(数学においてεというのは、「小さい数」という文脈で多く登場します)。
(減点0.2/リーマン予想について)
・ 映画内では2回説明があり、一つは「素数の分布について」、もう一つは複素関数論の中での説明ですが、後者は学部3年(数学科)レベルバリバリの話で、かつこの2つは同じ説明ですが(ただし、このこともちゃんと前提知識が必要)、複素関数論まで出てくるのは「日本での放映を考えると」やや厳しいのではなかろうか、と思います。
王道ながら新鮮
驚くほど美しい物語。
数学と音楽の美しさと学問の自由についての映画。
蝶のように解き、蜂のように証明する。完璧な数式は完璧な音楽のようだ、という…
そこに南北問題や政治的駆け引きまでぶっ込んで来るから油断ならない。
チェ・ミンシクだからいつ北からの潜入工作員として高校生達を殺し始めるかと心配してたけど、悲しみを湛えた数学者のままでした…ww
王道の物語ながら新鮮な数式描写なども素晴らしい。
絶対に観るべき1本です。
それだけで美しい学問
天才数学者ハクソン役のチェ・ミンシクが何よりピカイチで良かった。日本だったら誰が演じたらいいんだろうと思いながら見てました。
数学が武器製造に使われる北への批判、数学が進学や就職の手段として使われている南への失望。境界を越えてやって来た南、でも南の学校では富める者とそうでない者とを分かち排除する境界があることをハクソンはジウを通して知る。ジウとの出会いは亡くした息子と数学との出会い直しに繋がったのだろうか。πのピアノ曲、美しかった。
学校の最後のシーンは「セント・オブ・ウーマン」のパチーノだった。ジウは答えでなく過程の大事さ、今日ダメでも明日また頑張ればいいんだ!という希望と前向き姿勢を身につけて数学を専攻する大学生になった。
ハクソン先生はドイツの研究所に行った。物理にせよ化学にせよ、政治・軍事に使われた苦い辛い歴史を持つドイツは正面からそれを受け止め決して忘れないようにしている。とても意識している。だからハクソン先生の行き先がドイツで、ハクソン先生を受け入れたのがドイツということが私は腑に落ち嬉しかった。ドイツもかつて東西を分断する境界があった。そして今も東西の間に心の壁や格差の壁がある。
数学に憧れながらまるでダメで数字にさえも怯える私は憧憬の思いでこの映画を見た。英語タイトルのPrime「素数」も悪くないし、ハングルと日本語のタイトルは同じでこれも素敵。韓国のすさまじい学歴社会には吐き気がした。学力や思考力どころか見栄やブランドが相も変わらず重視される日本社会にはもっとがっかりする。
おまけ 1)
イチゴ牛乳ってドイツにもあるのかー?と疑心暗鬼でしたが、何と!調べたらありました。疑ってごめんなさい。
おまけ 2)
ハクソン先生が行った研究所はドイツはバーデン=ヴュルテンベルク州にあるOberwolfach数学研究所。1944年に設立。客員研究員の7割以上がドイツ国外からの研究者で占められていて、毎年約2500名もの数学者が世界中からこの研究所を訪れてワークショップなどに参加しているようです。ドイツの他の色々な研究所と同様、緑豊かな自然に囲まれた素晴らしい場所にあります。
学ぶ世界が広がる!!導き出した答えとは何か?
数学の問題で大事なことは答えを出す過程だと、そして勇気だと人生の生き方とも共通したことを教えてくれた素晴らしいストーリーでした。年配の男性警備員が私立高校の男子生徒に亡くなった息子の姿を重ねているようにも見えました。
数学オリンピックでもらった万年筆には数学者として生きる意志と思想の自由が込められていました。
ラストのどんでん返し、新しいスタートを切る少年は挫折から立ち直る、立派な成長を遂げていました。
何処かセント・オブ・ウーマンの映画をイメージしました。
観終わった後、実に爽快でした。
補足、同級生の女の子の笑顔、いちごオ・レも微笑ましく思いました。
学んだのは解き方ではなく学び方
音楽が頭からずっと消えない。余韻がすごい。
ジウが学んだのは数学の解き方ではなく学び方。一方、年齢も知識も経験も差がありすぎる2人だけど、純真で心がキレイなジウの優しさは確実にハクソンの心に潤いと癒しを与えた。そこに芽生えた絆は友情?いや家族愛に近かったように思う。
勉強には本当にそれを理解して深めることと、問題を解くためのテクニックを学ぶことの二通りあるのはわかるんだけど、そもそも人に何かを教えるって教える側が正しく理解していないとできない。
そして前者は時間がないとできないから、テクニックを教える方はいかに効率よく結果を出せるか、に重点を置いている。
だから前者のような時間をかけてやるものはやはり専門機関に行ってから、心からそれが好きな人のための学びになるんだろね。
自分では解けるけど教えられないとか、教えてもらっても何言ってるかよくわからない人っているけど、あれは解き方はわかってるけど、なんでそうなるかを説明できないってことなのかなとこの映画を観て思った。
韓国エンタメって感情を殺して我慢して耐え忍んで押さえ込んでもう底に着くしかない、というギリギリでバァァァーーーン!!!って爆発する瞬間を必ず作ってる気がする。
そして毎度その罠にハマって泣くハメになる単純なわたし。
オイラーの公式
2023年4月9日
映画 #不思議の国の数学者 (2022年)鑑賞
終盤に演説シーンがありますが、#セント・オブ・ウーマン の演説シーンを思い出しました
#チェ・ミンシク はアジアの #アル・パチーノ と言ってもいい素晴らしい俳優だと認識しました
@FansVoiceJP さん試写会ありがとうございました
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