「その黒の中に何を見るか」岸辺露伴 ルーヴルへ行く 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その黒の中に何を見るか
まさに超タイムリー!…な本作。
だから見たという訳ではなく、どんな作品なのかなと気になっていた。
と言うのも、実は当初は知らなかった。漫画が原作である事。それがあの『ジョジョの奇妙な冒険』である事。漫画には疎いもんで…。
NHKで実写ドラマ化。その劇場版。
ジョジョの実写化と言うと、嫌でも“あれ”を思い出す。意気揚々とシリーズ化も見据えたものの、三池崇史に駄作が増えただけのコスプレ映画。
しかし本作は、それとは全く違う。パッと見の印象からも分かる。だって当初は、フランス・ルーヴルでも撮影を敢行したヒューマン・サスペンスと思ったほど。
勿論原作漫画にも登場。主人公は、岸辺露伴。
人気の漫画家。性格はクールでミステリアス。
スタンド能力は、“ヘブンズ・ドアー”。相手を本にし、その記憶を読む。
人の顔に本を取っ付けた特殊メイク(…?)はちと珍妙だが、ジョジョらしい奇妙な能力は健在。
尚、ジョジョ未見者でも分かるように、“スタンド”という言葉や幽霊体のような像(ヴィジョン)は無く、“能力”とされている。
新作構想の過程で知った、フランス人画家が書いたある絵。
オークションで落札し、競い合った相手に盗まれ掛けるが、手に入れる。
露伴はその絵にある思い出があった。
青年時代、祖母の下宿で漫画修行をしていた時出会った一人の女性。奈々瀬。
彼女から“この世で最も黒い絵”について知らされる。
奈々瀬とその絵に取り憑かれ、奈々瀬をモデルに絵を書くも、何故か奈々瀬が発狂してその絵を破き、ほろ苦く儚く狂おしい慕情の日々を思い出す…。
フランス人画家が書いたのは模写で、オリジナルは江戸時代に日本人絵師が書いたもの。
それがフランス・ルーヴル美術館にあると知った露伴は、担当編集・京香と共に現地へ赴くが…。
“世界で最も濃い黒”は何かで聞いた事あるが、光なども一切反射せず、まるで見る者を吸い込んでしまいそうな“黒い絵”。
そこには邪悪な何かがあり、その“黒”に憑かれた者は幻覚を見、怪異な死を遂げる。
各々が抱える後悔や罪…。その魔手は露伴にも…!
その絵が引き起こすルーヴル美術館での奇怪な事件。
アダルトな雰囲気すら漂う青年露伴と奈々瀬の過去。
黒い絵、著者である絵師、奈々瀬、過去の悲劇、そして露伴も絡む関係…。
ミステリアスでアダルトでドラマチック。本当にあのコスプレ駄作とはまるで違う!
『万能鑑定士Q モナ・リザの瞳』以来邦画2度目となるルーヴル美術館での撮影が本作の格調を高める。
秘密倉庫や贋作犯罪グループは勿論創作だが、ミステリーやサスペンスのムード充分。
高橋一生の佇まい。
彼が“陰”なら、飯豊まりえは“陽”。軽妙なやり取りも。
ドラマ版とこの映画版。なるほど、これがきっかけで…と、今見るとやはりついつい思ってしまう。
キャストの“話題”はこの二人かもしれないが、一際印象放つのは木村文乃。
あの色気×妖艶さ! 悩める青年時代にあんな年上女性と出会っていたら、露伴でなくとも生涯忘れられない。
エンタメではあるが、独特の美意識や作風漂う。
すんなりとした分かり易さでもない為、好みは分かれそう。
非常に良かったとまではいかないが、つまらなさや期待外れ感は無かった。寧ろ、
その“黒”の中に何を見るか…?
後悔、罪、自分を押し潰すほどの恐ろしさ…。
ただそれだけではない。
深い黒の中に、見える筈のない一つの光。
様々な思い入り交じった忘れ得ぬ輝き。
それがあの時から今も、自分を包み込む。
その余韻に浸る。