「漫画は芸術か?!」岸辺露伴 ルーヴルへ行く かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
漫画は芸術か?!
フランスではすでに“漫画”が9番目の芸術として認知されているらしく、本作の原作漫画もルーブル美術館から直々荒木飛呂彦に依頼があった読み切りモノらしい。漫画が芸術?なんて(わたしを含め)バカにしている方がほとんどの日本ではあるが、考えてみれば、今や総合芸術として認識されている映画だって出始めの頃は似非芸術扱いされていたわけで、日本でもやがて漫画が芸術と呼ばれる日も遠からずおとずれることだろう。
漫画家荒木飛呂彦の分身である岸辺露伴が、ルーブル美術館の地下に眠っていた“世界でもっとも黒くて邪悪な絵”を見つけたことにより、露伴自身のルーツに接する怪奇譚なのである。パワハラととられてもおかしくないいつもの上から目線が、芸術の都パリにおけるロケシーンではすっかり毒気がぬかれ、変な帽子を被った普通の優しいおじさんに様変わり。本当は漫画家というよりは芸術家と呼ばれたい荒木飛呂彦の本音がついつい露出してしまったかのようである。
ほとんどお上りさんにしか見えない泉京香(飯豊まりえ)のコスチュームにしても心なしか控え目で自慢の脚線美も今回ほとんど披露していない。芸術にエロは不要とでもいいたげなのである。そのルーブルロケどうこうよりも、若き日に漫画修行のため下宿していた元旅館の祖母宅で出会った、奈々瀬(木村文乃)という美女との思い出が本作のメインディッシュといえるだろう。その奈々瀬に誘われるように山村仁左衛門という絵師が描いた“黒い絵”に導かれ、やがて奈々瀬が露伴の遠い祖先にあたることを知るのである。
ちょっと待った。絵師としての才能があったのは確か旦那の仁左衛門の方で奈々瀬本人ではないことに注意しなければならない。病弱の奈々瀬には子供がいなかったことを考えると、高橋一生が山村仁左衛門との一人二役を演じるのはどう考えても無理がある。遺伝でもなんでもない突然変異として授かった露伴の絵描きとしての才能にお墨付きを与えることさえできていないじゃないか。しかも死人には“ヘブンズ・ドア”が効かないって自分で言っていたっけ。リアリティにとことん拘る岸辺露伴にしては、なんともまの抜けたシナリオなのである。