「「ジョジョ」と美術と映画の繋がりを歴史に刻んだ記念碑的作品」岸辺露伴 ルーヴルへ行く 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「ジョジョ」と美術と映画の繋がりを歴史に刻んだ記念碑的作品
荒木飛呂彦による漫画「ジョジョの奇妙な冒険」(以降「ジョジョ」)は、1986年に連載開始、単行本が100巻を超え、今年3月からはPart 9の連載が始まるという大人気シリーズ。長期にわたり支持されてきた理由の一つは、Part 3で主要キャラたちが発現させ操るサイキックパワーを擬人化した“スタンド”で表現し、単にパワーの差だけでなく知略も駆使してのスタンド対決という前例のないユニークなバトルアクションを確立した点にある。なお、岸辺露伴というキャラクターが登場するのはPart 4「ダイヤモンドは砕けない」で、2017年に三池崇史監督・山﨑賢人主演で実写映画化されている(ただし同映画に露伴は登場せず)。
荒木は「ジョジョ」の長い連載の中で、ミケランジェロの彫刻に影響を受けたキャラクターのポージング(通称「ジョジョ立ち」)をはじめとする美術作品の引用や、傑作映画の要素をストーリー展開に盛り込んだり、洋楽のアーティスト名や曲名を人物名やスタンド名に借用したりしたことも多い。映画について少し例を挙げるなら、Part 2の闘技場での馬が引く戦車での対決は「ベン・ハー」、Part 4で山岸由花子が愛する広瀬康一を監禁するのは「ミザリー」、Part 6では「メメント」の記憶障害や「マグノリア」のカエルの雨がストーリーに取り入れられているのがわかりやすい。
さて、Part 4では脇キャラだった漫画家・岸辺露伴を中心に据え、遭遇する怪奇現象を彼のスタンドであるヘブンズ・ドアーと機転で切り抜けるスピンオフの短編漫画集「岸辺露伴は動かない」が1997年から断続的に連載される。「ジョジョ」が各国語に翻訳され海外での評価も高い荒木に2007年、ルーヴル美術館から「バンド・デシネ(フランスなどでの漫画の呼称)プロジェクト」の一環として、ルーヴルを舞台にしたオリジナル作品のオファーが届く。これを快諾した荒木は翌年ルーヴルを訪れて取材し、立ち入りを許可された美術館の地下倉庫の様子などに着想を得、2009年に「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を発表。その一部が同年ルーヴルに展示され、同美術館で史上初めて展示された日本人漫画家の漫画作品となった。
NHKは2020年より「岸辺露伴は動かない」を実写ドラマ化。その際のキャスト・スタッフが続投する形でこの実写映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」が制作される流れに。同美術館はこのロケ撮影にも許可を出しており、荒木作品とルーヴルの良好な関係が継続しているのは喜ばしい。
映画の成り立ちでかなりの文字数を費やしてしまったが、荒木飛呂彦作品にはもともと美術と映画に深い繋がりがあり、それもまた魅力の一部として国内外で評価され、そうした経緯から「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の映画化に至ったことは実に感慨深い。原作漫画やアニメ化作品、ドラマのいずれにも触れたことがない観客にはやや不親切な作りかもしれないが、この映画を入り口に荒木ワールドにはまるのもありだろう。基調はダークなストーリーだが、露伴役の高橋一生と編集者・泉京香役の飯豊まりえの絶妙な距離感がコミックリリーフとなり、軽やかな展開の一助になっている。高橋、飯豊いずれもはまり役だと思う。