「初見向けでファンも考察し甲斐のある良作品」劇場版 SPY×FAMILY CODE: White 野蒜さんの映画レビュー(感想・評価)
初見向けでファンも考察し甲斐のある良作品
私は原作ファン&TVアニメも楽しんで視聴している人間です。ここから物語の深部に触れたり、かなり独自の解釈が含まれますので原作未読の方等はご注意ください。
また、映画未視聴の方も細部について書いているので注意してください。
星4.5は次回作で超えてくれることを期待してのものです。シリアスが物足りないと感じ二周目を見たいと思うほど深いストーリーではないかもしれません。でも少し待ってください。『考えを止め』なければ、見えてくるものがあるんです!(※後述します)
私はあくまで『SPY×FAMILY』に親しんでもらうための映画化第一作として完成度がとても高いと感じました。第二作、第三作と様々なテーマで制作し続けてほしいと心から願います。
序盤から物語のラストへ構成が分かりやすく無駄がなく、時間の配分もスマートで長尺のカットが多様されていたこともあり見やすくなっていたと思います。
私は3人と1匹の中ではロイドのファンですが、まず冒頭シーンでやられました。存在が示唆されていたものの描かれてはこなかった仕事上の女装&籠絡シーン。衣装そのままでロイドの声に戻って電話するの、ここで興奮するのは気持ち悪いと承知の上で需要を満たされました。あと指輪麻酔針と小型カメラは大天才フランキーさまの発明品ですよね、そうですよね! 最高。
ヨルさんの戦闘シーンはいつもながら格好良く血飛沫は可愛らしく、日常に戻った時のギャップも良かったです。『ただいま』と言うアーニャちゃんに最早突っ込まなくなっているちち。一人でお留守番もままあることかもしれないですが、任務のために遅くなるならあらかじめシッターさんを呼んでいたのでは……? フランキーが直前まで居たorまだ居る可能性にありがとう。
さて、序盤では家族の能力や関係性、それぞれの立場での周りの人間との関わり方や立ち位置が丁寧に描かれています。そして普段の舞台バーリントにいる主要キャラをほぼ動かした上で一家は開始20分ほどでフリジスへの移動を始めるんです。わくわくの家族旅行ですね。最終的にメレメレを食べないのかよ! という声も散見されますが目的は『星』の獲得であり描かれるのは『星獲得のための奔走劇』です。練習でメレメレを作ってご機嫌なアーニャちゃんは居ると思いますので脳内補完を行いましょう。
フリジスまでの経路ですが、時代的に蒸気機関がまだまだ盛んな為列車での旅となります。確か電車ではなかったですが記憶が朧げですので、これから見る人はチェックして頂けると嬉しいです。いずれにせよ個室付きでわくわくしますね。
チョコレートの想像シーンで『西国一のチョコ』(ここでドイツの科学力は世界一が脳内でリフレイン)が奪われるところ、アーニャちゃんが幼心に冷戦状態を肌で感じているからだと分かって良い演出でした。偽装家族は平和の為だからそれはそう。
その後ロイドと『わるもの』の戦いやアーニャちゃんの能力故に出来る気遣い、ヨルさんの一歩踏み込める力強さ、ボンドはアーニャちゃんに寄り添う姿が描かれて……フォージャー家ってこうだよな、と心温まります。合間に置いていかれたユーリ&フランキーに場面が移るのもよかったです。彼ら、それぞれ夫妻から旅行の話を聞いているらしいのですがユーリは分かるけどフランキーはたかだか一泊二日留守にするだけでロイドから教えてもらってるの……? 最終手段みたいに頼られてるし、諜報員同士の無駄な接触は避けるべきなのに情報屋はいくら巻き込んでもいいんですか最高! もうお分かりかと思いますが私が最も好きなのはフランキーです。アーニャちゃんがブツを手に入れた辺りで、おや……? と思いましたし、ラストで(市場にはめったに出回らないはずの!)アイテムを手に入れた彼が入れ違いになるのではと期待していたので描かれたのが本当に気持ちよかったです。これがカタルシスでしょうか。
話を戻して、というか語り過ぎてしまったのでそろそろ飛行機内部に入ります。まず賛否が分かれそうなうんこの神ですが、他のシーンよりカット数が多く華やかな色遣いと今までにない展開で脳が処理しようと頑張っているので長く見えるだけで実は時間自体はそれほど長くないんです。いや長いだろと言われてしまうとそれまでですが、女の子でこれをやってしまう土台を作ったのは大きい……。
次にヨルさんの戦闘シーンですが、相手は戦闘人間タイプFという相手。この世界では色んな能力開発が秘密裏に行われているんですね。アーニャちゃんやボンド同様の存在であるタイプFが出てきた意味は十二分にあったと思います。ヨルさんの迫力ある戦闘シーンの長回し1カットも素晴らしかったです。
そしてロイドの戦闘シーン。苦戦しつつアーニャちゃんに知らない間に助けられて勝利する、安心感のある展開。変装して戦っているのを見られているので、身のこなし方や細かな癖まで真似をしていてロイドとは違う体術なんだろうと思うと円盤で見返すのが今から楽しみです。
毒ガスについて追記です。
アニメ化した中にもありましたが、毒ガスが使用されるたびに深読みで胸が苦しくなります。今回はアーニャちゃんの活躍で回避出来たので尚更。そうか、東国は新型の毒ガス兵器の開発をしているんだ……。史実に目を向けないと何を言いたいか伝わらないと思いますが、何かの伏線なのでしょうか。分かりません。
最後に後述のクライマックスです。一家が墜落寸前の飛行機の舵を取るシーン。崩壊しかけた『オペレーション〈梟〉』と重なるものがあります。予備知識として、西国との戦争計画を練っていると思われている標的デスモンドの『国家統一党』が左右どちらに位置するかを知っておくと考察が捗ります。本編でロイドがデスモンドの政党を支持する素振りを見せますが、ここで一家は取り舵──つまり、左に舵を切ります。そちらに湖があり着水出来そうだったのは、偶然でしょうか? 何でも描けて、あの展開でなくてもいいし右側に湖がある地形にしてしまっても『力を合わせて困難を乗り越える』場面は描けたのにも関わらず、です。父親が翼のある機体の舵輪を握り締め、妻と娘が追い3人で同じ方向を目指す。暗喩があるように思えてなりません。近くに標的次男が居て愛国精神に溢れる学校に通うアーニャちゃんは今後葛藤があるかもしれないし、表立ってではなくても風当たりが強いと感じることになるのかもしれません。(変顔になるほどの向かい風)
出されたものだけでなく、本当に描かれているものは何なのか、伝えようとしていることは何か……疑問に思いながら読み解ける範囲で知りたいという姿勢で視聴したいと思うものです。
エンディング、主題歌ともに素晴らしかったです。
デップルを誘惑したのは誰だったのか?(小説版で補足有)爆発の原因は?等明かされないままのこともあるので、裏話等をまとめた本の発売も待ち遠しいです。
映画版でもそれぞれが持つキャラクターの性格や行動に乖離がなく、いつも通りのフォージャー家に原作のシリアス展開を期待していてもプラス考察要素が含まれていて私は大満足でした。
こちらを読んで、見方が変わるかもなと思ってくださった方は何卒2回目3回目と映画館へ足を運んで頂けると幸いです。宜しくお願い致します。