「期待していたのでちょっと残念…。もう少し掘り下げて描いてほしかった…。」親のお金は誰のもの 法定相続人 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
期待していたのでちょっと残念…。もう少し掘り下げて描いてほしかった…。
今年348本目(合計998本目/今月(2023年10月度)13本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
以下、行政書士の資格持ちレベルでの感想です。
なお、以下、民法から条文を引っ張る場合のみ「民法」は省略します。
まず、成年後見人制度は、「伝統的に」弁護士、司法書士、そして法律隣接職ではない社会福祉士の3業種が圧倒的に多く、行政書士でもなることは可能ですが、10%程度「でした」。ただ、令和5年3月の総務省通達で「何か勘違いしているのかもしれないが、法に触れない範囲で行政書士がやっても問題なし」という扱いが明確になって(これまでグレーな扱いだった)、これから変わっていくものと思います(この点、いわゆる超高齢化社会がやってくることが明白な状況なので、少しでもなりてを増やす意図があるものと思われます)。
映画の趣旨としては、6億円の資産があるだのないだのといった家庭に弁護士の方が成年後見人になってその財産管理制度を悪用して私服を肥やしまくり、そもそも「6億円の財産はどこにあるのか」といったところに飛びます。かなり法律系資格の知識を要する映画ですが、一方で伊勢志摩の真珠産業の現状を描いている部分もあり「観光できてね」という部分も持っています。
※ 大阪市ではアポロシネマ(天王寺)のみの放映になっているのは、そのためと思われます(近鉄で行くことができる)。
妙に法律系映画の風格があるような、条文を持ち出すようなマニアックな展開もあるかと思えば「そんなわけないだろ」という部分もあり、ややこうミスマッチが起きているのでは…と思います(伊勢志摩、三重県の観光枠という要素もあることと、あまりに厳密に描きすぎると時間がオーバーしすぎるという別の問題があるため)。また、この映画は「成年後見制度の悪用」を描いた制度ですが「裏の観点で見たときの問題」については触れられておらず、実はそちらのほうが深刻な問題なので、そちらにも少しは触れてほしかったというところです。
さて、さっそく採点いきましょう。
重ねて書きますが、以下、民法からの場合は条文番号のみで示し、それ以外は法律名を明記します。
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(減点0.3/一切のものが買えない?)
日用品その他の購入までは妨げられませんので(9)、扱いが奇妙です。
(減点0.3/成年後見に選ばれた後の扱いが変)
後見人に不正な行為や著しい不行跡(「不行跡」は原文ママ)ほかがあった場合は当事者からの家裁への請求か、家裁自ら職権で解任する(ことを求める)ことができますので(845)、その話が出てこないのが奇妙です。
なお、この「誰を成年後見人にするか」を決める手続きを規定するのが「家事事件手続法」というものですが、即時抗告(高裁への控訴、といっても同じ)ができるものは列挙されていて「誰が家裁によって選任されたかどうかの争い」には即時抗告が「できません」。これは、成年被後見人の権利を早く管理すべき、という考え方によります。
(減点0.3/弁護士と不動産登記の扱いが雑)
家を売るシーンがありますが、ここは明確に177条が絡んできます。
弁護士は確かに不動産登記に関し司法書士の業務ができますが、不動産登記が特殊な業務である(不動産登記法)ために実際に弁護士がすべてやるということが実務上少なく(だから、司法書士は登記のスペシャリストといわれる)、この点なぜか司法書士も出ない点も不自然です(不動産の取引関係は登記しないと第三者に対抗できません(177))。
※ なお、ほか「弁護士も行えるが実質的に独占業務」な例として、行政書士の「外国人の手続き関係」があります(法律の知識はもとより(英語、韓国語ほかを除けば)言語に通じていないと受任しても実質何もできないため。このため、合格後に中国語なりスペイン語なりを学習する、あるいはそもそもそれらをある程度理解して行政書士の資格を取る方もいます)。
(減点0.3/長谷川式テストの実施方法)
「野菜の名前を10個言う」のが最後であり、そのあとに「先ほど見せたものを3つ言ってください」ではありません(長谷川式テストは認知症の診断にも使われるほどなので、厳格な方式で行わないとダメなのです)。
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(減点なし/参考/成年後見制度を巡って「本当は」何が起きているのか)
実はここからのほうがかなり重要です。
確かにこの映画のように6億円の資産といった場合、弁護士、司法書士ほかが我先へとめぐって後見制度を利用し私服を肥やすことはまま見られます(ただし通常は発覚すると懲戒扱い。程度にもよるが一発レッドカード=廃業勧告、もありうる)。
ただ、この映画のような例は特殊なケースであり、一般大衆が利用する後見制度というのは、本人にあまり財産がないケースです(せいぜい500万円もあるかどうかくらい)。
しかし、成年後見業務のその報酬や費用は、その財産の中から与えられます(861の2、862。開始審判につき、例外は家事事件手続法28条(当事者負担))。つまり、「ないものは払われない」のであり(当然のように遺族に連帯債務が発生したりするようなことにはならない)、この業務は弁護士がやるにせよ行政書士がやるにせよ、「本人にさしたる財産がないなら」報酬が期待しえないものです(862条では「与えることができる」というものであり「与えなければならない」ではない)。
※ ただし、「与えることができる」だけで家庭裁判所がケチって「まったく与えない」とすると完全ボランティアと化するため、弁護士会にせよ行政書士会にせよ「相場となる金額」をそれぞれ定めて家裁に申し入れていて(本人の総財産によって3~4区分に分かれる)、実際はそれによって報酬は支払われます(ただし、財産が尽きるとどうしようもないのは結局同じ)。
つまり、各種業法の中でできる業務の中では比較的ボランティア活動(社会奉仕)に近いところがあり、そのためにこの映画まではいかないにせよ潜脱的な手段をとったり、極端に個人に干渉(ジュース1本買うだけでも文句を言うようなケースは実際に存在します)するというケースがあり、それは「弁護士だって行政書士だってボランティアオンリーではない」ということと同時に、「これからの超高齢化社会が来ることは確実である一方、当然に誰もが6奥円だの何だのという資産を持っているのでは当然ない」ということもあるため、「なり手が少ない」のが実は現状で(この映画のようなケースでは飛びついてくるが、逆に一般家庭の水準だと渋られるなど極端すぎる)、実はこちらのほうが「裏で起きている問題」であることは知ってほしいかな、というところです。
※ なお、都道府県、市町村においては、本人の財産を確認したうえで相当額を助成していることが普通で(生活保護世帯か、それに準じる財産しかない世帯が対象)、「結果的に」本人負担が生じないか「ほぼ」生じないかというように配慮はされますが、まったく負担がないということには通常はなりません。
※ そのため、弁護士にせよ行政書士にせよ「取り分が少ない」案件であり(この映画の例は極端すぎると考えたほうが良いです)、一方で本人の財産を保全するために過度に関与すると人権侵害の事案であり、「非常にやりにくい事案」ではあります(一種のボランティア活動と考えたほうがよく、これ「だけ」で食べていくのは厳しいです)
(減点なし/参考/伝統的に社会福祉士が後見業務を行っていたのはなぜか)
後見人には「療養看護」も含まれています(858)。このことが関係します(老人ホームに入所させるなどの福祉的なことはそのスペシャリストのほうが良いため)。この「身体的看護」のことを「身上監護」といいます。