「前作までの作品の意味を問いかねない作品」ゴジラ×コング 新たなる帝国 あるとさんの映画レビュー(感想・評価)
前作までの作品の意味を問いかねない作品
ゴジラのテーマの1つとして、人間がどれほど抗おうとしても決して敵わない圧倒的な存在であると思います。
これまでの描写においても、基本的にゴジラが「倒される」ことは無く、「行動不能」や「戦闘不能」または「死んでいない」と描写される程度にしか表現されていません。
それはモンスターヴァースのゴジラも同様で、作中内にて「神にも等しい」と明言されています。
そんなゴジラが「世界の王」として君臨するまでの過程が『キング・オブ・モンスターズ』だと考えます。
また、ゴジラの天敵として描かれたコングが、ゴジラと対等に戦う可能性を秘めた存在であることを表現するために、『ゴジラvsコング』は必要な作品だったと思います。
しかし、『ゴジラ×コング 新たなる帝国』では、これまでの描写を覆す内容になっているように感じます。
詳しい内容は省略させてもらいますが、簡単に要約すると「神にも等しい存在」と「神の天敵」より強い敵がいるから準備して共闘しよう、という話になっています。
このような展開は、ゴジラの「神にも等しい圧倒的存在」というイメージを損なうものであり、制作するべきではない、もしくはまた別の敵を用意する必要があったと考えます。
それこそギドラのような宇宙怪獣を新たに登場させた方が納得できるでしょう。なぜなら、ギドラは「理から外れた存在」として描かれているからです。
しかし「地球の王」として描かれたゴジラや、その王に抗いうる存在として描写されているコングを超える存在が「地球の怪獣」であり、同じ理の下にいる生物だとすると、これまでの描写が無意味になってしまいます。
同じルール、同じゲームの中で「最強」として描かれていたのに、全くの同じルール、同じくゲームの中で別の「最強」を新たに登場させるのは、これまでの作品の意味を損ねる結果になるのではないでしょうか。
一方で、ギドラのような別ルール、別ゲームの存在であれば「別の最強」として扱われても納得できます。
ストーリーの内容も「ゴジラ」と名前がついておりますが、基本的にはコングが主体となって進行し、ゴジラはあくまでおまけのような扱いとなっています。
今作の敵は、謎の石を利用して多少他より強い敵を操る、いわゆるチンピラのような存在。
前作の『ゴジラvsコング』で共通の敵として描かれたメカゴジラや、前々作でラスボスとして描かれたキングギドラと比較すると、明らかに格が下がっているように思われます。
「このキャラクターがストーリーのボスとして相応の格があるのか?」また「そもそもタイトルに『ゴジラ』を冠するほどゴジラが登場しているのか?」と問われると、はっきりと「はい」と頷くのは難しいと言えます。
その上、モンスターヴァースの魅力である怪獣同士の迫力ある戦闘シーンも終盤に少しだけ登場する程度であり、私個人の感想として「つまらない」とまでは申しませんが、長々と続く地味なストーリー展開には疑問を感じざるを得ません。
前作や前々作をご覧になっている方々の中には、今回の内容をつまらないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そもそも、ゴジラのあの紫の姿も未知の敵に備えるためと説明されていますが、ギドラより明らかに格下の相手に本当に必要だったのでしょうか?
もし必要だったのであれば、なぜギドラのときにそうしなかったのでしょうか?
少々詰めが甘いように感じられます。
以上の理由から、モンスターヴァースの利点を無視し、ゴジラのテーマや作品内の設定を軽視して制作された本作については、シナリオライターや監督の力量不足を疑われても仕方がないと言えるのではないでしょうか。
ただ、さすがはハリウッドといったところで、CGに関しては非常に丁寧で作り込まれており、そのクオリティには感心しました。
モンスターヴァース全体として見た場合、テーマや設定を無視しているように感じられる作品ではありますが、単純に「怪獣大戦」として楽しむ分には十分なクオリティを持った作品と言えるでしょう。
ですがかなり説明が少なく、初見に優しくない印象を受けました。そのため、単品として楽しむのは難しい。
でしたら最初からシリーズ最新作として作るのではなく、別の作品として独立させた方が良かったのではないかと考えます。
単品として評価しても星3以下、シリーズ最新作として評価するのであれば星1以下が妥当ではないかと考えます。