「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ?」君たちはどう生きるか たまに映画館で見る人さんの映画レビュー(感想・評価)
老兵は死なず、ただ消えゆくのみ?
幼少の頃より宮崎駿監督の作品は見続けています。久石譲氏の音楽の素晴らしさと相まって、美しく描かれた風情の中で生き生きと動き回るキャクラクターたちは、宮崎駿監督が作品に吹き込む生命の素晴らしさをまざまざと見せつけてきました。
見るものを魅了する珠玉の作品の数々は、監督が同時代の天才であることを象徴していたようでした。
そう、その時代では。
今はどうでしょうか?監督の他にも様々なアニメや監督が生まれています。
その中で生み出された本作は、まるで宮崎駿監督が若い世代の監督に刺激を受け、自分の描きたかった作品をひたすらにまとめ上げたのではないのか?そう思えました。
もしも監督がまだ若く、才能のみならず勢いも持ち合わせていたのなら、ともすれば散文的な作品に陥ち入りかねない数々を、一つの作品としてまとめ上げる強大な説得力を、その作品に吹き込むことができていたのではないでしょうか。
しかし、もはやその力は失われたのでしょうか、本作はただひたすら監督の描きたかった場面と場面をつなぎ合わせただけの、ツギハギだらけの作品に仕上がったように思えます。
作中に主人公の叔父が、主人公に跡を継いでくれないかと問いかけるシーンがあります。多くの方がこれは象徴的なシーンだと捉えるでしょう。当方もそうです。しかし、既に、ともすれば監督を超える才能を持つ新進気鋭の作家が出てきている中で、自分の跡を継いで欲しいというその台詞は、ある意味高慢とも感じました。
しかし思い返してみれば、そのセリフは同時に、宮崎駿という作家は、まだ死んでいないにだ、と捉えることができました。この作品は遺作などではなく、若い才能に嫉妬した監督が、自分ならこのシーンはこう表現するんだ、こうできるんだ、そう高らかに宣言している、そういった意地とも見れると感じました。
老兵は死なず、ただ消えゆくのみとなるのか、または再び作品を作ろうとするのか。これが本作の楽しみ方でした。