「遅いことなどないのかも知れない。 再び現れた監督の深いメッセージは生死のなかの愛に満ちたエールだ。」君たちはどう生きるか humさんの映画レビュー(感想・評価)
遅いことなどないのかも知れない。 再び現れた監督の深いメッセージは生死のなかの愛に満ちたエールだ。
燃えあがる火の海をかけぬけるのは
大切な人がそこにいるから。
しかし知る、永遠の命などないこと。
哀しみを抱いたままの心。
選ぶ余地もなく変わる人生への不安や戸惑い。
それでもそこで生きていく。
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身の回りに次々と溢れかえる事象を、監督はあえてたくさんの登場人物やその不可思議な言動や空間に表現したように感じた。
単純なようでとても複雑で、柔らかくやさしいようで恐ろしく厳しくて、慣れようとすれば変化して、追いつけばもう離れている。
進化したかのようにみえ退化もし、悲しき争いの教訓は未だ生かされず。
目にしたものをそのまま信じた時代はいつしか遠ざかり、複雑な情報が瞬く間に入れ替わり混沌としているこの世界をそのままに。
この世の厳しい先を深く静かにみつめながら積木を持つ手は幾度も人知れずためらいに震えたはずだ。
しかし監督はあえて振り切った。
それが自分の役割りだと知っているから。
未来への時間をつくりだせる「君たち」に向けて、人を知りものを知ることで考えて歩む意味を伝えるために。
胸がじんとする。
目の底に圧がかかる。
眞人はほかならぬ〝君〟(私)の迷える姿なのかも知れない。
戸惑い、もがき、一喜一憂を繰り返しながらも「君」たちは、傍に離さない〝希望〟と〝意志〟を持つことで前に進める。
未来とはその先にしかない。
うらやましいくらいにまだ続く時間は「君たち」が持つ特権なんだよと。
先を行った人々に見守られ過去から未来へと繋がっている尊い今を、その時々の役割を感じとり、あたまとからだとこころで道を拓くために…君たちは、どう生きるか。
受け止める側のじぶんのあり方を問われた貴重な時間が、帰り道のくっきりした夏の空をなんだか少し滲ませた。
私には眞人ほどの時間はない。
その深い呼吸のあと、監督よりいくらか年上である故郷の両親があたまに浮かんだ。
自分に起きている流れのすべてを受け止めひたすら明るく穏やかな母と、1日でも母より長く生き母を守り通すことを決めているようにみえる病ある真面目な父のことを。
私はどう生きるか、この先の未来を。
何度も問いながら自分らしく生きていきたい。
そんなことを思った。
⚫︎⚫︎追記⚫︎⚫︎
グレシャムの法則さんの追記を読後の追記です。(7月27日)
眞人の足元に落ちた本、それを読んで泣いているシーン。
なぜ、あのタイミングであれだけのカットだったか。
タイトルにしているのに、なぜ?とあっけなく感じるくらいのシーンは〝あえて〟なのだろう。
監督は「君たち」の元へさらりと、そして強烈な愛に満ちた魂を込めてそれを送り込んだのだ。
人が持つ邪悪さを自己に見つけ翻弄されるだろう「君たち」が〝「君たち」自身によって〟気づき、それに命をあたえ乗り越えるための鍵にするために。
タイトルそんなに関係ないんじゃない?のもやもや感が少なからずあったなら、不気味にそびえ立つあの塔が音をたて崩れたときのようになにかが形を変え、まわりの空気を新たにすることがいつかあるだろう。
駆り立てられる思いを表すのに、遅いことなどないのかも知れない。
監督の背中が私たちの前を歩きながら、そう思わせてくれた。
修正、追記、再追記、評価変更済み
あの追記は調子に乗って書いてしまいました😅
今から思うと悔しさも少しはあったのかもしれません。
話題作でもあった本作を全く咀嚼しきれなかった自分に。
humさんのレビューも読んで、ただ一つだけ間違えてなかったのは、主人公が持つ強い意志の所在でした。生きるって事は時間が過ぎる事で、時間は一方向にしか進まない。ではどう進むのか?そんな事をまた思い出しました。
こんばんは。共感とコメントありがとうございます。本作はあとで解説を読んだりしたら、監督の幼少期の体験をモチーフにしたものらしいですね。監督のいろんな思いが込められた作品、解説を読んでからまた見てみるといろんな発見があるかもしれません。
humさん、コメント有難うございます。美しく詩的なレビューに感激です。
このサイトのレビューを見ていると、分からないつまらないと切り捨ててしまってる方も多く、とても残念に思っております。この映画の素晴らしさを少しでも多くの方に伝えられたらと考え、苦労しながら何とか自分も拙いレビューを書きました。
おはよう御座います。humさんコメントありがとうございます。帰り道のくっきりした空…からの文章には胸に積まされる思いがしますし凄く共感します。ホント何度も観たい面白い作品ですね。
humさん
コメントありがとうございます。
先を行った人々に見守られ、過去から未来へ繋がる尊い今…眞人にとっては年齢的に「先輩」にあたる様々なキャラクターが時を超え年齢を変えた姿で描かれていたこと、この言葉ですとんと腑に落ちました。
監督もその中の1人として、今一度描く側として一度閉じかけた引き出しを開けてくれたようにも思えます。
いつも素晴らしいレビューで、もう一度観に行きたくなりました。
humさん、コメント有難うございます。
humさんの相変わらず流麗な筆致と深い洞察に、この映画以上に考えさせられ、返礼のコメントが遅れてしまいました。
宮崎駿が「君たち」に投げたボールを私は確りキャッチできなかったかもしれません。が、それぞれの方法で受け止めた人も多いはず。
そんな人々から少しずつヒントをもらいながら、またいつか宮崎駿に戻りたいと思いました。
humさん、こんにちは。humさんのレビューの『うらやましいくらいにまだ続く時間…』のくだりはジーンと来ました。若い人へのメッセージなのに、お説教のようにならないのは、解釈のための余白を目一杯取っているからなのでしょうか。見終わった後でも、色々と考えますね。
コメントありがとうございます。
私のレビューを評価頂きありがとうございます。
humさんのレビュー、ポエムみたいに、言葉を大切にして綴られていますね。静かですがhumさんの想いが伝わってきます。
事前情報ゼロでしたので、従来の作品よりは集中して観ましたが、
何かフワフワとしていて、掴まえることができない作品でしたが、素直に自然に観ることができました。
眞人は人間界を超越した異世界に触れることで、異世界の価値観、世界観を知り、成長していきます。自分がどう生きるかを定めていきます。
そこで物語は終わります。プロローグで物語は終わります。
そして、我々観客は観終わって初めて、君たちはどう生きるかという題名が宮崎監督からの強い問題提起だと気付きます。本作は、そういう作品だと思います。
では、また共感作で。
ー以上ー
humさんのレビュー、読み返すたびに、あ、そういうことかも、と何かに気づかされます。
鈴木プロデューサーによると、「ミヤさんは、いつも未来しか見てない」そうで、過去作品のことは全然話題にしないそうです。だからこそ、未来への時間がたくさんある〝君たち〟に敢えて分かりやすいテーマ(大人がこうなって欲しいと思うような安直な理想など)を押し付けずに、〝自分で考えるんだよ、自分の未来なのだから〟という突き放した表現にしたのかもしれないですね。
共感ありがとうございます。
ユーモラスだけどちょっと怖い、鳥たちの描写は新機軸だったと思います。序盤の飛翔するアオサギ、瀕死のペリカンも見事な映像でした。
今は監督の意図を分析するより、観せられた絵をじっくり咀嚼したい気分になってます。
共感とコメントありがとうございます!
humさんのレビューを読んでいて、どういうわけか小沢健二の「ラブリー」という曲のフレーズが再生されました。
「夜が深く長い時を越え」、あるいは「いつか悲しみで胸がいっぱいでも」日々は続いていく。
諦観と大きな愛。
宮崎駿もオザケンもhumさんも私も、「君たち」としてつながっているはず!なんて。
hum様コメントありがとうございます。
深い洞察と優しい視点。素晴らしいレビューです。
この映画は多様な解釈ができる楽しさが有ります。
パンフレットはまだですが、関係者の話しも気になりますね。
素敵なレビューです。
自分の落書きとは雲泥の差です😱
humさんのコメントを読み、どんな音でも曲に聞こえてしまう、絶対音感の方の苦しみにも似てるなと思いました。
humさん
共感&コメントありがとうございます。
素敵なレビュー、ありがとうございます。何度も何度も読み返させていただきました。
深く深く考えさせられる映画のテーマ、そしてエンドロールでは音楽とともに余韻を楽しませてもらいました。映画音楽の大切さをつくづく感じている今日この頃です。素敵な作品でした!
コメントありがとうございます。
考察厨、懐古厨、ジブリ厨(本当に嫌いなものなんでもかんでも否定する)などの言葉が生まれたなかでも宮崎駿の手描きの世界は愛されてますね👏
僕は今回賛否どちらも肯定派です。
深すぎる考察は勉強不足で?ですけど。
humさんのレヴューはいつも美しい👏ウラヤマシイ
語彙が豊富で、例えがうまく、詩人のようなレビューだなと感じました。こう書くと技術的な話のように思われるかもしれませんが、そうではありません。「相手に伝える」ためには、「言葉」が必要だと感じる文章でした。
宮崎さんも、今まで培ってきた技術をもとにして、この映画を作られたのだと思います。
その監督の思いをしっかり受け取って、このレビューを書くことができたhumさんは幸せ者だと思いました。
humさん、コメントありがとうございます。私は、宮﨑駿監督が引退を撤回してまでどうしてもこの作品を作りたくなった理由を知りたくて、原作本を読み始めました。まだ1/3ほどしか読んでませんが、既に心が震えてます。
第二次対戦下、ロンドンに住む12歳のデイヴィッド少年が愛する母親を亡くした直後、母の声を聞き、それを追って異界に入り込み…
12歳の少年に仮託して、描きたかったのはいったいなんなのか⁉️
これからそれを探る旅にお供してきます
コメントありがとうございます。マヒトとヒミの抱き合うシーンは、よかったですね。本当にこれからどう生きていくのかを考えさせてくれる奥の深い映画で、素晴らしい作品ですね。
humさん、共感&コメントありがとうございます。
humさんのお人柄あふれるレビュー、大変胸を打たれます!!
宮崎駿監督の年齢を考えたら、今作での溢れ出るイマジネーションやアイディアの数々には驚嘆させられます!!あと1、2作頑張っていただけたら嬉しいのですが・・・
はじめまして。
共感していただきまして誠にありがとうございます。
hum 様のレビューを拝読させていただきました。
とてもお優しく、お心遣いのある文章で、心の中が少し温かくなったような気がしました
今までの宮﨑監督の作品では「主人公が心から信じて愛した人を、命を懸けて助け出す」という点が共通していました。
今作では、ラストシーンで主人公は「どう生きるか」と問われ、これから進むべき道を模索してゆく出発点に立ったところで終幕となります。今までのジブリ作品とは正反対の位置で終わるので、観客の何割かの方々は「何かよくわからない」と期待はずれの感を持たれたのではないかと考えました。
hum様のようにほんの少し立ち位置を変えてみて、「もういっぺんっやってみよう」と出発点をつくれば、さっきよりも新しいものが見えるとおもいます。今回作品に戸惑われていた方々も、いずれ気づかれると思います。
青鷺が最後に「一度忘れてみな。そのうちまた思い出すから」というようなことを言っていたような気がします。全くその通りです。
今出回っているいろんな情報をつめこんで、もう一度観に行きます。
hum様ほどの読み込みはできないかもしれませんが、自分なりの道を見つけてこようと思います。
失礼いたします。
ありがとうございました。
初めてコメント致します
登録したのも本作のレビューを書きたかったからなので、わからない事もあり失礼があったら申し訳ありません
たくさんの方々のレビューを拝読致しました
様々な考えや、考察なんてのもこんなにしたがる人たちがいるんだな、と不思議に思う中
貴方のレビューはまず美しい文章だな、と思って共感致しました
それぞれの人生がおありでしょう
そのなかで 時に うん、なんか考えてみちゃったぞ、という瞬間を貰えるのが映画や音楽、本だと思うのです
美しい文章のなかに
多くのご経験やそれ故の思慮を感じました
お邪魔致しました