劇場公開日 2023年7月14日

「宮崎駿の期待に応えられなかった我々」君たちはどう生きるか とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0宮崎駿の期待に応えられなかった我々

2023年7月20日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

 悲しい。ごめん。私たちは間違っていた。
 宮崎駿は、人の良心というか、悪意に犯されていない意志があることを信じていたし、愛し慈しんでいた。けれど奪いあい貶めあう酷すぎる社会、ますます酷くなっていくこの社会にあって、絶望の底にいる。
 空から突如として飛来し、誕生した塔。その中は全く別の時空間となっており、天国、地獄、あの世、彼岸、ニライカナイ、何とでも呼んでいい場所で、死んだ人も生まれる前の命もいる。何より、この酷すぎる現世とは異なる、ここではないどこかである。大叔父様として登場する宮崎駿は、そこが尊い場所であると悟り、すぐに保護した。そして現世を見限った宮崎駿は、広い集めたほんの少しのきれいな石=悪意に犯されてはいない石を積み上げ、世界とした。現世とは関わりを断った場所で積み木をして何十年、年老いた自分に代わり積み木をしてくれる(美しい心だけの世界を継続していってくれる)人を見出だし、あとを託そうとした。
 しかし若き眞人は、自分は悪意を知っている、自分はあとを継ぐことはできない、と断る。墓石を墓石と見分けられるような目を持った君ならできる、と食い下がるが、結局短期なインコの王の癇癪によってジブリは、間違えた、異世界は崩壊してしまう。そしてそれが戦前の話であり、宮崎駿が青年期以降生きた戦後から今の時代は、実はすでに素晴らしきもの=美しい心の世界は崩壊していたんだ…
 宮崎駿の孤独を埋められるような、同じ世界で会話ができるような人間はついに現れませんでした。彼は伝統とも血統とも何の関係もなく、落雷のように飛来して、美しい心を慈しむという活動を続けてきた。彼の世界を構成するエネルギーは、宇宙からやってきた謎の高エネルギー岩石。結局誰とも繋がれず、後にも遺せず、宮崎駿の活動はいずれ喪われていくのでしょう。
 現世のシーンなんて、ホントにちょっとでしたね。酷くて醜いだけのこの世界なんて見たくも描きたくもないのかも知れない。
 不甲斐なくてみっともない我々に怒ってくれていた時代もあったんでしょうが、今はただ空しい悲しみとともに死を思っているのでしょうか。
 彼に希望や期待を持たせて送ることはできそうにもない。ごめん。ほんとにごめんなさい。宮崎駿。

とびこがれ