「生命大肯定モノ。作家自身の欲望の掘削作業に付き合ってみたらこれまですべての宮崎作品を一貫するテーマにたどり着いた感動がある」君たちはどう生きるか popo2さんの映画レビュー(感想・評価)
生命大肯定モノ。作家自身の欲望の掘削作業に付き合ってみたらこれまですべての宮崎作品を一貫するテーマにたどり着いた感動がある
アート鑑賞と読書してるようなアニメ映画体験で非常に楽しかった。私にとってのアート鑑賞の意図は勉強して読み解ける自分であることを証明あるいは否定されながら次の知的好奇心のモチベーションを得ていくこと、自分が知的生命体であることを肯定するための確認作業だから、それに値する内容だったことがまずうれしく有難いと思います。
この作家が意図したものを反映させた、という意味での思い通り具合は、今回何パーセントくらいだったのだろうか。もし何割かは思い通りに作った作品なのだとすると、老いて欲が剥き出しになった状態で、言いたかったことや自分の創作人生において悔しいこと、今までは意識下に抑えてきた願望が溢れてきたものを表現された割合が高く、その意味でこれまでにないジブリ作品となったことに面食らったファンも多くいたんじゃないだろうか。
これまでのジブリ映画って、自然と生命に対する畏怖と尊敬と美しさを、わざわざわかりやすい物語の形にしてくれて、私たち凡人にもわかるように提供してきてくれていたけど、今回は少しわかりにくいと感じたのは、今回は私たちへのサービスではなく、作家自身の掘削作業、自分自身の欲望や未消化の感情を表出する場を与えてもらうという作家自身へのサービスや夏休み的な空間だった感じがして、それは老いでわがままになった、ということもできるし、わがままを言える環境に育った周りがあったからこそ得られた自由なのかもしれないけれど、日本のエンターテイメントアニメーションの大黒柱としての作家から、作家自身を切り離し自由に死んでいくための大事なプロセスのように思え、とても肯定すべきものだと思います。
そんな環境の中で、彼が作家として言いたかった(あるいはにじみ出てしまった)内容の一つで私が気に入ったのは、女性と自然。この作家は出産する性としての女性を恐れ、また霊的で面白いと感じていて、とても好きなんだろうと思う。そして創作により出産の神秘にどうにかしてたどり着きたい人なんだろうなと今回の女性の描かれ方で確信しました。出産する性としての女性・人間の大肯定。それは産む産まない、産める産めないにかかわらず、生命を継ぐものとしての人と人の関わり方やありかたの美しさの肯定で、それにかかわる老若女性や謎の一体感や老人たちのまとまり、つながり、若い女性どおしの共感にもとづく世界の足元で、右往左往するしかない男性たちだからこそのどうしようもなさカッコよさ、冒険の主人公であること、醜く老いた姿などの対比と一緒に愛すべきものとして描かれていることが、生命大肯定。すべての生き物大肯定。という内容になっていて深いところでのこれまでの作家が表現してきたものとも一致しているため、作家としての一貫性を感じました。すべての生命の深い肯定と神秘に近づこうとする作家の欲求は、とても尊くて、あり/なし、使える/使えない、持っている/持っていないを分断する社会で生きづまる今にとって必要な視点で、この作家と同じ時代を生きることができた私が語る必要のある作家だと心から思う。
走馬灯であり遺書である作品のテクスチャーは、これまでの自分の創作の総復習や振り返りだったりもするし、積み上げた石の積み木に囚われないで新しく創作しろ、っていう後継やまだこれからを生きていく人たちへ向けたメッセージのようなものも込められていて、
どのくらい作家の意識下の仕事かは不明であるが、ずっとジブリで育ってきたファンや、その意思を1割でも継ごうとしてこのアートを読んでいる読者にとっては、死ぬまでかけて読みとく価値のある映像作品として受け取ることができる素晴らしい作品だったと思います。作家自身の掘削作業だから難易度は各段に高いですがまずは前情報なくこの作品に触れられたことに感謝です。
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本作、疎開先で主人公は様々な異世界を知り、これからどう生きるのかを定め、東京に戻るところで終わります。プロローグだけで終わります。後は君たち(観客)がどう生きるかを考えさせる作品でした。
宮崎監督からの檄、エールだと感じました。
ー以上ー