「宮崎駿の「生前葬」心地よく甘美な「悪夢」」君たちはどう生きるか たぬき的生活さんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿の「生前葬」心地よく甘美な「悪夢」
是非観た方々と語り合いたく、初めてこういうものに投稿します。
私は泣きました。そして、宮崎駿氏の13作品が大好きなんだと改めて気がつかされました。いつも傍に、あの作品たちがいたのだということを再認識した次第です。この映画では、「未来少年コナン」「ルパン三世カリオストロ」「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」「もののけ姫」「千と千尋」「ハウル」「ポニョ」「風立ちぬ」「君たちはどう生きるか」以上、13の積み木すべてが現出しています。13の積み木は、ファシズム的象徴もしくは死の暗喩によって崩れ、宮崎駿という塔は崩落します。そして、登場人物たちはそれぞれの人生へと、「生きる」扉を開ける。これこそ、「君たちはどう生きるか、もう君たちの時代だ。」という強い宮崎駿氏のメッセージなのだと痛感しました。
そして宮崎駿氏には「弟さん」がいたのですね。ハッとしました。ポスターにもなった彼、アオサギは一体、現世では誰になったのか。最終シーン、一瞬だけ映り込む「弟」...その顔はあのずる賢いアオサギと瓜二つ...これには脱帽しました。兄弟たちはいつもお互いをけん制しながら親たちの愛を取り合います。醜く、ずるくて、自分のことしか考えない。人間なんてそんな欲深いものです。でも、愛し合う。協力し合う。愛おしい私たち人間。そして、子どもってズルい生き物だもの。宮崎駿氏の本音を邪推するならば「僕、正直子ども、あんまり好きじゃないんだよね苦笑 だから君たち、早く大きくなりなさいな!」でも、そういう子どもの狡さを肯定し、見せつけてくれる宮崎駿氏の度量の深さにも心打たれました。
きっと、宮崎駿氏は本当にこれ以降作品を作ることはしないと思います。積み木が、もう若い私達世代に託されているのだから。だからこそ、彼が生前葬として、塔を自ら木っ端微塵にするのは、彼だからこそなし得る技だと、脱帽の思いでした。
久石譲さんの音楽も、今回中間部でガムラン音楽的要素が取り入れられています。キリコさん、良い女だったんだなあと。老いた人が最初から老いている訳ではない、人に歴史あり。前半嫌な感じのばあさんだなと思ったけれど、後半で見事に覆されるのも、なんとも愛おしい。こういう人間を見るまなざしの暖かさも、宮崎駿氏の真骨頂だと感じます。
長く書いてしまいましたが、宮崎駿氏に心から感謝の言葉を伝えたいです。
この映画を劇場で観れることを幸せに思いました。