「足跡を結ぶ、桁違いのイメージと表現力」君たちはどう生きるか 今日は休館日さんの映画レビュー(感想・評価)
足跡を結ぶ、桁違いのイメージと表現力
世界観に目が向きがちだが、宮崎駿の凄さは脚本・構成・編集の巧みさにあると思う。無駄がなく、テンポよく話を進めていく力。一切の冗長さがないから、物語が激しく展開してもどこまでもわかりやすい。濁りやノイズのないストーリーテリング。世界の映画史上、最高峰の才能である理由。エンタメ作家としての比類なき力。
その手法で日本映画の最高峰に辿り着いた後、宮崎駿は構造的な物語づくりから、豊かなイメージや表現の追求へとシフトしていく。主観としては「ハウル」あたりからか。明らかに作風は変化し、心情的・観念的なイメージづくりが目立ってきた。
その方向性が無骨に発露したのが「ポニョ」。あれだけわかりやすい作品を作ってきた監督が、意味不明で観念的な、物語よりも表現を重視した作品を仕上げてきた。ちとおかしくなったのかな、なんて思いもしたが、いま思えば明らかに作品の比重が変化していた。失敗作とは言わずとも、まだ仕上がってなかったのだなと今になれば思える早すぎたカルト作品だ。
そして本作である。
ネタバレ厳禁ともあるが、そもそもバレて困るネタがあるような話ではない。少年の単なる成長物語。「千と千尋」と内容は大して変わらない。
あえて言うなればそんな「大したことない話」をここまで豊かなイメージと想像力、そして表現に落とし込んでみせた手腕。細かいところがよくわからないが、そもそも説明する気すらないように見える。しかし目の前に展開するイメージと映像表現は、他の作品に比類しない圧倒的なもの(「2001年宇宙の旅」を思い起こすような感触)。「ポニョ」では形になっていなかった、未到の映像表現の塊がここにある。「わかる/わからない」なんて土俵にそもそもいない。
自身の過去作の表現をオマージュ的に取り上げながら、映像作家としての圧倒的な力量の差を関係者に見せつけて。これまでの足跡を見事に一つの形にまとめてみせて。これで引退作と言うならあまりに憎らしくて格好いい。ストーリーテラーだけでなく、映像表現者としても、映画史の最高峰にいたんだ。この偏屈じじいは。