「DNAを揺さぶる宮﨑駿の脳内プロジェクション」君たちはどう生きるか yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
DNAを揺さぶる宮﨑駿の脳内プロジェクション
公開初日のレイトショーで鑑賞。上映開始直前まで情報を遮断したかったので、SNSは開かず周囲の会話も耳にしないようイヤホンを装着したまま座席に着いた。ここまでまっさらな状態で向き合う映画体験が昨今あっただろうか。声優のイメージや事前情報による余計な先入観に引っ張られることなく、物語と絵に全ての集中力を注ぐことができた…いや、そんな能動的な状態ではなく、全神経が勝手に持っていかれた。それだけで至福の時間だった。
最初から最後まで宮﨑駿節が全開。彼にしか生み出すことのできない、あの独特の絵の表現、キャラクター造形、ストーリーとが凝縮されていた。(詰め込むだけ詰め込んであった、という方が正直なところかもしれないが…。)「私はいま宮﨑駿の新作を見ているんだ・・・!」という興奮がずっと続いた。と同時に、本当にこの作品をもって引退するんだな、という決意というか哀愁を感じて、エンドロールではホロホロと涙が溢れてきた。米津玄師の主題歌も良かったな…。
監督の自叙伝的なお話しと聞いていたが、まさに監督の思想や悔恨みたいなものを映像化した、監督の脳内をスクリーンにプロジェクションしているような、そんな作品だった。「君たちはどう生きるか」は劇中で主人公が読む本のタイトルだった。母親から主人公へと贈られたその本はどんな内容なのだろうかと、そこにも興味を惹かれた。
「難しかった」とか「よく分からなかった」みたいな感想を抱く人もいると思う。でも私は、難解さや意味不明さがイコールつまらないにはならないと思っているし、分からないからこその面白さが宮﨑駿監督作品の醍醐味ではないかと思うくらいだ。私自身、小学校低学年の頃に「風の谷のナウシカ」を観たのが宮﨑駿作品との出会いだが、あの時の「・・・よく分からないけど、なんかすごい面白かった・・・」(それから何度も繰り返し観た)感覚はもはやDNAに刻まれていると言ってもいい。中年になった今日に、幼少期と同じ感覚を呼び覚まされた、そんな体験だった。日本に生まれ、宮﨑駿が生む作品と共に育ってきた私には、条件反射のように揺さぶられる感情があるのだ。
さて、もう一度劇場で鑑賞したら、どんな感想を持つだろうか。確かめてみたいと思っている。