「宮崎駿版「フェイブルマン」」君たちはどう生きるか ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿版「フェイブルマン」
「風立ちぬ」からまたさらに自身の話を掘り下げてくるとは思っていなかった。
事前情報が一切ないという上映形態は、公開当時の劇場に独特な雰囲気をもたらし、満席の客席全員が固唾を呑んで見守るという貴重な体験をすることができた。こんなことができるアニメ監督というのは今の日本では宮崎駿監督か庵野秀明監督くらいだろう。
低予算、小規模だから事前情報がなかったのか?という私の心配は冒頭数秒で吹き飛んだ。
絵が動いている!!!(当たり前だけど笑)
吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」を幼少期に読んで感銘を受けた宮崎駿の自叙伝的な話になるという事前情報そのまんまの話になっていて驚いた。
本作の主人公 牧眞人は宮崎駿本人であり、戦時中に戦闘機部品の製造会社役員である父親と共に移った宇都宮での話がベースとなっている。
まずは自分のこと美少年に描き過ぎだろ!!笑という突っ込みはさておき、父親を木村拓哉にやらせるか〜といったところや、主人公を不思議な世界にいざなうサギ男を菅田将暉にやらせるか〜といったキャスティングも興味深かった。
また、やたらと色っぽい義理母は所作含めて渾身の作画、演技で凄まじいこだわりを感じた。「風立ちぬ」での教養ある人間の自然な所作をアニメーションで描き切るということをやっていたので、本作でも炸裂。
自分の父親をめぐる実母とその妹である義理母の関係性はハッキリとは描かれないのですが、考えようによってはいくらでもドロドロとしたドラマを生み出させる要素満載。本作は「風立ちぬ」に続いて完全に大人向けですよね。
(妹と父親の大人の関係は結構前からあって、終盤の義理母から主人公への拒絶反応は自分の恋人を姉に取られたと思っていたからとも受け取れる。)
2時間に収めるために尋常じゃないくらい早いペースでところどころ端折りながら進んでいくので着いていくのがやっと(私はそう感じました。)、ですが絵的な遊びも満載でハッキリとコメディに振り切ってるところもあっていいなと思ったのと、ここぞというドラマ的なキメ(久石譲のピアノサウンドでビシッとみせてくる)もちゃんとあったので最後まで飽きずに観れました。
終盤の展開は宮崎駿監督も自分で言ってるくらいわけわかんないのですが、やはり母親との再会、そして母親が死ぬということを知らされても主人公を産んで、そしてその時まで生きる為に帰っていくという選択をしたこと、火事で亡くなる母親はあの世界では火を操る存在であり、火事では苦しまないということがわかり、主人公へ救いがもたらされるということ。
そしてサギ男(青サギ)が最後に主人公に問いかける「その石のことはそのうち忘れると思うけど、そのまま持っておきな」というセリフ。
石とは主人公の罪であり、世界を構築する(バランスをとる)ためのパーツでもある。
新たな世界を構築することはなくなったが、その石をお守りとして持って、主人公は去っていきます。
庵野秀明にとって"それ"は槍であった。
宮崎駿監督にとっての"それ"は石だった。
という話だったのかなと思う。
タイトル「君たちはどう生きるか」じゃなくて良かったんじゃないかと思うんだけど笑
また、鈴木敏夫プロデューサーのラジオ「ジブリ汗まみれ」で本作に登場すらキャラクターにはモデルがいるようで、覗き屋のアオサギは鈴木敏夫プロデューサー(宮さんは否定しているそうですが)のようで、宮崎駿と鈴木敏夫の会話がそっくりそのまま再現されたかのようだということ(だとしたら主人公が何回も殺そうとしてるの怖くない?笑)
そしてそんな主人公とアオサギの喧嘩を止めるキリコはジブリで色彩監督を努めていた故・保田道代さん、そして高畑勲も登場したとのこと。("頭の良い人"ととして登場した有名な大叔父さんかな)
また、終盤のパートは鈴木敏夫が宮崎駿にもっと書けと引き伸ばした展開らしく、引退すると言ってるおじいちゃんをよくこんなに働かせるなと思うが笑 エヴァイマジナリーならぬ駿イマジナリーな世界は初号試写で宮崎駿本人が「わけがわからない」というくらい、かなりぶっ飛んだ世界笑
最後にどぎついの作ったなー。