「言葉がない場所にあるのは沈黙だ。」ウーマン・トーキング 私たちの選択 humさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉がない場所にあるのは沈黙だ。
自分の生き方を決める2日間。
タイムリミットの中で繰り広げられるのは年代様々な女性たちの〝忌憚とあきらめのない〟議論。
彼女たちの共通点は、女性が学ぶことを許されず、性的被害を罪なきものとして蔑ろにされることが当たり前のそのコミュニティで暮らしてきたこと。
議論の書記係として同席している男性は村の教師オーガスト。
彼には村を離れ学んだ経験があり、その知識と物腰の柔らかい様子は、彼女たちに信頼と安心を与えているのがわかる。
そんな彼がなぜ女性たちに混ざり同席したのか?
きっとある大きな意義を追いながら、薄暗い納屋の隅に気配を消した自分が座った。
時間は刻々と過ぎていく。
口火を切るにも、賛同するにも、アイデアを出すにも、反対するにも相当な勇気がいるのがわかる。
開かずの間にしまい込んだような長年の感情をはじめて解放する者にはなおさらのこと。
決意とひきかえにある喪失のかなしみを伴うことにためらう者の姿もある。
屋根裏にもれる光が、重なり垂れこめる緊張感のなかの希望と不安を交互に照らす。
選択の重みをそれぞれが感じながらも、やがてその覚悟はまとまりひとつの歌声となる。
そして映し出される納屋の方向を眺めるある家族。
そこにあるのは音なき分裂。
過去を想像させるひどい傷を頬に残しながらも赦すと決めた心が、気づきを押し殺し葛藤する心と選択すらできない心を無理やりにドアの中へ閉ざした。
私は一瞬にして途方に暮れた。
こうしてどれほどの罪が生き延び、埋没させられる心があるのだろうかと。
しかし、彼女たちの脱出間際についに破られる沈黙。
その選択が、流されるだけのこどもの人生をも救い、仲間に抱きしめ迎えられる姿を私はこんなにも期待していたとは。
言葉と会話によって、あるいは沈黙を行動にかえた勇気によって、逃げるというそれまで無かった道が拓けた喜びを感じた一方で、もちろんこの村に根付く罪が根本的に消えたわけではないことはわかる。
しかし、生の声を聞き記録し、教育者としての責任を受け止めただろうオーガストがそこにいるということだ。
実は、私には納屋のまわりに広がる美しく肥沃な土地の緑のしげみが犯罪を手助けしているようにみえていた。
だから、こどもたちが草原で遊んでいるシーンはずっと不穏なイメージを駆り立てる材料だった。
それは、私の過去に消え去ることのない記憶があるからなのだが、その上にもうっすらと不思議な爽快感のようなものが立ち込めたのだ。
そうして彼女たちが旅立つ様子を頼もしく見送った私は、今これを書きながら、あの時一緒に小さな自分の荷物を載せて運んでもらったような気すらしている。
世界に続くあらゆる暴力に対する怒りや哀しみへの嘆きにとどまらないメッセージが、力強く進む馬車や踏み締める足音を響かせ、かの大地から伝える本作。
絶やさず続く未来のために沈黙するな。
人間に与えられた知恵であるコミュニケーション手段を今こそ生かせ。
そしてその時決して忘れてはならない。
言葉に責任を。会話に理性を。
……と聞こえた気がするのだ。
質の高いテーマがしっかりしてる良い作品で色々なシーンが全部あればいいってもんじゃないよってのが凄いです!
ある意味アフターサンみたいに
見せないで想像させる手法って
凄いとマジで思います。
共感ありがとうございます( * ॑꒳ ॑*)⸝
素晴らしいレビュー おべんきょになります
はっきりは分かりませんが、製作総指揮がブラピになっておりましたので、勝手に確信してしまいました笑
と言うか、ブラピだったらいいなぁという願望でもあります(´∀`*)
私には、教育機会を奪うコミュニティーというものの罪深さがいたたまれませんでした。
学ぶ機会の逸失とは、学校のようなシステムだけでなく、支配者側の恣意的な情報遮断のことでもあり、程度の差はあれ、かつての帝国の復活を目指すあの大国やお隣りの大国も同じ。軍事独裁のあの国も、原理主義による支配を強めるあの国も。21世紀の今、〝自由〟を享受できる環境に生まれることが、実はかなりの低確率なのだという事実がとても重くのしかかります。
とんちんかんなレビューに共感ありがとうございました。humさんが、サラ・ポーリーをお気に入りに加えていたので気がつきました。あなたになら言える・・・の彼女の脚本・監督作品だったんですね。こりゃ、よく寝て頭がスッキリしている時にもう一回観なきゃ。最近睡眠の質の低下を自覚しているもので。ありがとうございました。それと、レビュー素晴らしいです。