「破綻している。でも刺さる人には100点。」劇場版 緊急取調室 THE FINAL こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)
破綻している。でも刺さる人には100点。
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冷静に観るとかなり破茶滅茶である。だが、それを理由に一刀両断してしまうのは、少し雑だろう。なぜならこの映画は、論理や現実を描くことを最初から放棄したうえで、特定の感情層に向けて極めて精密に設計された「商品」だからだ。
25年前、目撃者もほぼおらず、事故の可能性も否定できず、物証は被害者の日記のみ。その日記も航行方針を巡る考え方の違いが書かれているだけで、事件性を立証するには到底足りない。これで自供だけを武器に総理大臣を追い詰める?しかも大規模災害が迫る最中に?現実の刑事実務、危機管理、政治判断のどれを取っても成立しない。これは取調べではなく、説話であり、説教である。
だが問題は、脚本家も制作陣も、そのことを十分承知している点だ。本作は「現実にあり得るか」ではなく、「真壁有希子が最後まで問い続けたか」に全てを賭けている。国家も制度も証拠も、ここでは舞台装置に過ぎない。総理大臣は個人に還元され、取調室は良心の象徴へと変換される。これはサスペンスではなく、寓話だ。
その結果、現実感覚や組織感覚を持つ観客には、キントリの面々が視野狭窄で自己中心的に映る。一方で、シリーズを10年以上見続け、真壁というキャラクターに情緒的投資をしてきた層には、これ以上ないカタルシスを提供する。論理を捨てた代わりに、感情の決着を完璧に付けにいった。
つまりこの映画は失敗作ではない。ただし、万人向けでもない。信用残高を使い切り、ターゲットを極限まで絞った結果、刺さる人には深く刺さり、降りられない人には耐え難い。そういう、いかにも現代日本ドラマらしい、割り切りの良い最終回である。
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