658km、陽子の旅のレビュー・感想・評価
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帰りたくない でも帰ろう 帰ってきたよ カントリーロード
監督は『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』『私の男』『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』『#マンホール』の熊切和嘉
脚本は『劇場版ほんとうにあった怖い話』の室井孝介
脚本は他に浪子想
上海国際映画祭で最優秀作品賞最優秀脚本賞最優秀主演女優賞
ヒッチハイクで東京から弘前を目指すロードムービー
粗筋
しばらく会っていなかった従兄に訃報を知らされる
実家の弘前に住む父が亡くなった
葬儀のため東京から従兄の家族と一緒に従兄が運転する車に同行することになったが栃木のサービスエリアで逸れてしまう
従兄の息子がサービスエリアで怪我をしてしまい近くの病院に行ったからだ
携帯電話は故障していて自宅に置いたままの工藤陽子はヒッチハイクで弘前を目指すことを決意する
『♯マンホール』の熊切監督
あっちはマンホールの中に落ちてしまいなかなか出られない男の話で新郎として翌日の結婚式に間に合わないといけない
こっちはサービスエリアで従兄の車に逸れてしまいヒッチハイクで父の葬儀に間に合わないといけない
あっちはスマホがあるがこっちはスマホがない
その設定だけでそそるじゃないか
映画館で観たかったが仕事の関係もあり優先順位で両方とも観ることができなかった
ヒッチハイクに協力する人たちは大体が良い人なんだが女性ならではの危険はある
自分は女じゃないし明らかに男なわけだし基本的に登場人物に感情移入して物語を鑑賞するタイプではない
だがそれでも浜野謙太演じる若宮というライターに物凄くストレスを感じた
登場したばかりの時点ですでに観るのが途中で嫌になるくらいの吐き気がするほどの嫌悪感
浜野謙太の家族には申し訳ないけど元々生理的にあの顔は受け付けないのだ
これもいわゆる緊張と緩和だろうか
最悪な経験の後に優しくされると心はどんどん開いていくのだろうかまさかの長々と自分語りを始めてしまう
なんやかんやで弘前の実家に辿り着く工藤陽子
陽子の父親はそれほど悪い人でなかったようだ
憧れの東京に移り住もうとしたが親に反対され飛び出してきたまま帰らなかった陽子
仕事もうまくいかず結婚もしないまま20年以上の時が経ち40過ぎになった陽子
なぜ日本のロードムービーの多くは北を目指すのか
『幸福の黄色いハンカチ』『風花』『風の電話』『ドライブ・イン・マイカー』『すずめの戸締り』枚挙に暇がない
演歌にしたって『津軽海峡冬景色』『哀しみ本線日本海』
鹿児島や宮崎を目指しても良いじゃないか
仙台は良くて薩摩川内はダメなのか
東京人の考えはよくわからない
いずれにせよ安易な発想に違いない
東北ということもあって震災について触れる場面もあったが古くから地元に住む人たちは特にそれについて語る者はいなかった
まあそうだろう
震災の日あたり以外は語り部以外語る者はまずいない
あくまで個人的意見だがワンシチュエーションのサスペンスと比較すると一般的なロードムービーは娯楽性が低い
主人公が陰キャだとなお低くなる
だがわりと国際的な映画祭で高く評価される傾向を感じる
閉ざし気味の主人公が行く先々の人々と心を触れ合い助けを受け徐々に心を開きなんとか目的地に辿り着き人間的に成長していく過程が海外のインテリに受けるんだろう
もう少し今どのあたりにいるのかわかると良いのだがそれがない
せめて『すずめの戸締り』くらいはほしい
それがこの作品の欠点だがそういえば『風の電話』や『ドライブ・イン・マイカー』もそうだった記憶がある
ちょっと不親切だ
ヒッチハイクなんてやったことないしやっているのを観たことないし協力して乗せてあげたことないしこれからもない
見ず知らずの人を乗せるなんてありえない
たとえ女性でも乗せない
なんで拒否するんだよと思うレビュアーも多いかもしれないがまあ普通なのかな
自分がつまらない多数派なのは癪だけど
そういえば宮崎駿の『耳をすませば』のエンディングテーマ『カントリーロード』は原曲の歌詞の内容が全くの真逆でびっくりしましたがそれを歌っている歌手は本名陽子
この映画のヒロインと名前が一緒ですが偶然でしょうか
あっちは「帰りたい帰れないさようならカントリーロード」ですが父の葬儀ということでこっちの陽子は帰りました
たぶん陽子は従兄に訃報を告げられた時も半ば強制的に車に乗せられたときも本当は帰りたくなかったのかもしれない
栃木のパーキングエリアで逸れたときも東京に帰っても良かったはずだがコミュ症にも関わらずヒッチハイクをしてまで陽子は弘前を目指した
それはなぜなのか
ケジメをつけたかったのか
それは自分にはよくわからない
ちなみに山城新伍の娘は父の葬儀には来なかった
それだけ嫌いだったのだ
陽子はそうではなかった
あそこで終わるのも悪くない
わりと好き
配役
42歳独身在宅フリーターの工藤陽子に菊地凛子
陽子の従兄の工藤茂に竹原ピストル
茂の妻に原田佳奈
茂の娘の春海に池谷美音
春海の弟の海人に阿久津将真
利用者が少ないパーキングエリアでヒッチハイクをしている小野田リサに見上愛
陽子の記憶に度々幻影として現れる若い頃の父の工藤昭政にオダギリジョー
※
ヒッチハイクの陽子を乗せる人たち
※
デザイン会社に勤めるシングルマザーの立花久美子に黒沢あすか
ライターの若宮修に浜野謙太
震災ボランティアをきっかけに東北に移住した便利屋の八尾麻衣子に仁村紗和
寡黙な地元民の水野隆太に篠原篤
隆太の息子の健太に松藤史恩
バイク乗りの健太の兄に鈴木馨太
木下夫婦の夫の方の木下登に吉澤健
木下夫婦の妻の方の木下静江に風吹ジュン
陽子の総て‼️
42歳でフリーターの陽子‼️人生を諦めて、なんとなく日々を過ごす陽子‼️ちょっとした対人恐怖症で他人とコミュニケーションを取るのが苦手な陽子‼️夢を反対されたことがきっかけで、父親と疎遠になってる陽子‼️そんな父親の突然の訃報に実家に帰郷することになった陽子‼️ひょんなトラブルからヒッチハイクで東京から青森まで帰ることになる陽子‼️要は道中、いろんな人との交流の中で自分の人生を見つめ直す陽子の物語‼️物語的には大したストーリーではないのですが、この作品は陽子役菊地凛子さんの演技力を堪能する作品ですね‼️ハッキリ自分の考えを主張することもなく、後ろ向きで暗くて頑固な陽子‼️ホントにムカつくキャラ‼️という事は菊池凛子さんの演技力が凄いということでしょう‼️男にホテルに連れ込まれ、体を提供せざるをえなくなるシーンや、高速のインターで車に乗せてくれない老夫婦に逆ギレするシーンなんか愚の極致‼️そして終盤、ヒッチハイクさせてくれた人に、自分の生き方を後悔する告白のシーンなんか素晴らしかったですね‼️ラスト、何とか青森へたどり着いた陽子は、これからどんな人生を送るんでしょうか⁉️
鏡
コミュ障の「握手いいですか」
「サービスエリア演出いい」
今年12本目。
2023年7月の作品。近くだと新宿で公開で気になっていましたが行けず、今週新文芸坐で上映なので行って来ました。
素晴らしかった点が2つ。
見上愛がサービスエリアでダッシュするシーン。ランニングする事はありますがダッシュは何年してないし、今度家の帰りにダッシュしたいと思います。
もう一つ、菊地凛子が車の助手席で眠くてドライバーが「どうぞ」と言うシーン。自分も20才の時に事務所移転のアルバイトをしていて、高速道路でどうしても眠くてドライバーさんが「寝てていいですよ」優しい、と共に申し訳ない気持ちで寝たのを覚えています。あの仕事がこの映画に繋がるんだと。
この2つが日常に深く切り込んだ描写で、ここ描くんだと映画見て本当に良かったと嬉しくなりました。
時は止まり、そして動く
陽子が18で上京してまでやりたかったことは何なのだろう。
「誘われて寝るの初めてじゃないんでしょ」とライターに指摘されたように、初めてではないとしたら、彼女の夢と無関係ではないだろう。
いわゆる枕営業?だとしたら彼女の夢は、例えば俳優?
作家やミュージシャンと枕営業ってつながりにくい(寡聞なだけか?)から、でも何かの表現者になりたかった。それが自然かな。
枕営業が父親に知れて、殴られた?
そして、帰るに帰れなくなっていった?
もし、俳優志望だとしたら、約20年の年月は、見る影もないほど彼女を変えたということ。かつて彼女は、『陽子』の名にふさわしい女性だったのだろう。
658kmで出会った人たちが、動いていなかった彼女の感情を動かしてくれた。妬みや優しさ。それらは人に関わってこそ、表れる気持ちなのだから。
そして、止まっていた父親との時も、動かしてくれた。
人は、後悔の思いを深く沈めて生きていくものです。大なり小なりは。そんな人生って、いいですよね。
陽子の658km・・・それは陽子の20年間の距離!!
凄い映画だった。
熊切和憙監督は「海炭市叙景」からずうっと“すげえー“と思い、
「私の男」でも“すげえー““カッケー““無敵やん“好きだわー“
と思っていた。
長いブランク(に、思えていた)
「#マンホール」で、復活したやん・・・そう思って嬉しかった。
その熊切和憙監督が本格的に戻ってきた。嬉しい。
重ねていう凄い映画、
現実を切り取った描写、
女優ではなく、陽子という名の女性、が存在していた。
菊地凛子、きくちりんこ、RINKO KIKUCHI、
彼女が特別な存在の女優と、前からそう思っていたが、
その思いを強くする映画だった。
フィクションですらなくて、一人の人生に敗れた女・陽子。
(でもドキュメンタリーでは、全然ない、)
陽子そのもの、
陽子そのまま、
東京に負けた女、
都会・東京の1300万人の一人で、誰にも振り向かれず、
振り返られず、
居ることも知られず、
誰にも気にも留められず、
陽子は、20年前に青森から上京して、
なりたいものがあって、
その20年間のどこかで、
なりたいものに手が届かない・・・
それが分かったのに、しがみついて、頑張って、意地張って、
しがみつき続け、
自分に嘘をつき続けて、気がつけば、冒頭のように、
人の目を見て話すことも出来ない、
顔を上げて空を見上げることも出来ない、
負けて、敗れて、落ちぶれて、
死んだ目で、死んだように生きる、
もう若くもない、美しくもない、女の花の時期を、
燻り続けた、
長い、長い、長い20年間。
「父死す」の知らせを従兄弟の竹原ピストルから知らされる。
一緒に車で青森に帰る途中、
アクシデントでサービスエリアに置き去りにされて、
財布ひとつ(手荷物は車の中)、所持金は二千四百三十円、
ひたすら意地張ってるから、
警察署に駆け込むなんて・・・出来やしないし、
親戚の婆ちゃんに電話しても、
「立派になってー」とか言われて、
辛くて、辛すぎて、
受話器をそっと置いてしまう・・・
(チクショー、泣けてきやがった・・・)
(故郷に錦を飾る筈だったんだよ・・・)
(なりたいものになって、
(成功してさ、なりたいものになってさ、誉められてさ、
(お父ちゃんにも、誉められたかったんだよ、
(それまで・・・どうしても、・・・絶対に帰りたくなかった・・)
658kmの旅で、陽子は別人に変わった、
声を張り上げ、
「どうしても、青森に行きたいんです」
「乗せてください、お願いします、どうしても行きたいんです」
大声で言える人間に変わっていた。
《成功者でなくても、普通に息して、食べて笑って・・・
《他人とお喋りして、笑って、腹立てて、ムカついて、
《普通に生きれば良い・・・》
《それだけだ》
菊地凛子が国際女優と呼ばれる理由、
本物の人間を体現出来る理由・・・
それは私にも、きっと誰にも、分からないけれど、
表現者として真っ当に、真っ直ぐ、
人間として素晴らしい人、
多分・・・なんだなと思った。
菊地凛子はアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた「バベル」も
痛い役だった・・・聾唖の女性の歪さ、と父への愛がもっと欲しい・・・
うまく言えないが、なんかもう、凄かった・・・
インディーズの「トレジャーハンター・クミコ」でも真価を知った。
生意気で身の程しらずだけど、
「658km、陽子の旅」は、
キネマ旬報ベストテンで上位にあがるし、
監督、作品、主演女優でも注目されるだろう。
ただ私的に残念と言うか、自分が悪いんだけど、
オダギリジョーが、
陽子の父親の若い頃の役で、
《幻影で陽子を悩ませる・・・》
(そこまでは分からなかったんです)。
最初の降ろされた手洗い休憩所の電話ボックスに、
オダギリジョーが一瞬映りました・・・
・・・それが父親だと、分からなかったんです)
風吹ジュンの役・・・
人間のあったかさ、人の優しさの象徴ですね、
こちらも声ですねー、声でなんとか・・・
・・・この老夫婦と握手するシーン、
・・・一番好きでした・・・
心を揺さぶる・・・という意味で名作だと思いました。
(熊切監督は本作のような作家性のある作品でこそ、
(本領を発揮する・・・そんな気がします)
2432円、コミュ障の旅
序盤から陽子にイライラさせられます。
コミュ障どころかコミュニケーション取ろうともしないし、お礼も言わない。
終盤になっても頼み方や相手選びが下手クソ過ぎるし、それなのに逆ギレするし。
しかも、その陽子が歩いたり立ち尽くしたりするカットを長回しで映す。
これはワザとやっているのでは。
でもそんな陽子にも優しくしてくれる人はいる。
浜野謙太のようなクズにつけ込まれることもあるが、優しさだけで描かないのも誠実さかな。
その関わりの中で、少しだけ、ほんの少しだけ前へ進む。
父親と、そして自分の気持ちと向き合い、切々と言葉にする。
茂はまず置き去りにしたことを謝れとは思ったが、出棺を待たせてくれてよかった。
「人生に手遅れなんてない」みたいな綺麗事にしなかったのも好感が持てる。
全てをやり直すことも取り戻すことも出来ないけど、少しは良くなる気配を、雪解けの予感を覚えた。
画面が暗いシーンが長く続く上に、主人公があまり喋らないから眠くはなる。
わざとだとしても長回しが冗長すぎたので、もう少しスッキリ見せてほしかった。
とりあえず、人間ホッカイロされたいです。
リアルの中の非リアリティ
陽子の凝り固まった心が少しずつほぐれていく658㎞の旅
ストーリーよりも菊地凛子に惹かれて観る。若い頃にアメリカ・ハリウッドで仕事をするために単独で渡ったと言うことでずっと興味を持っていた女優さん。
今まで観た映画の中で主人公のセリフがここまで少ないものは初めて。言葉が無い代わりに仕草や表情がとても重要になってくる。私も自然と陽子の表情を見つめながら心を読もうとしたりしていた。希望を持って上京した若い頃から挫折を繰り返して、カチカチに固まってしまった今の状況の苦しい心の状態の陽子。人を寄せ付けない孤独で誰にも心を開こうとしない陽子の表情が658㎞の旅(ヒッチハイク)を進めて行くうちに、少しずつ和らいで行き言葉も聞こえてくるように。途中には嫌な奴もいたけど、様々な人から無償の優しさで接してもらいながら、東京から福島~弘前へ向かう風景を見つつ上京以来疎遠になっていた父(帰郷はその父の葬儀のため)を受け入れることが出来るようになった陽子の表情の変化の演技が素晴らしい。人と目を合わせることも出来ず、蚊の鳴くようなか細い声しか出なかった陽子がどんどん変わっていく。形として見ることの出来ない心の傷を癒してくれるのは、やはり形の無い人の思いやりか・・と改めてシミジミと感じた作品。
力作です。
【18歳で上京するも夢破れ、諦観したように生きる42歳の女性が父の訃報を聞き、故郷にヒッチハイクで向かう中、様々な人と出会う事で自らの悔いある生き方を振り返り、原点に戻る姿を描いたロードムービー。】
■陽子(菊池凛子)は、42歳独身。
クレーム処理の仕事をアパートの自宅で行っているがその生き様は自身の人生を諦めており、且つ人と会わないためコミュニケーション不全にも陥っている。
だが、ある日故郷の青森県に暮らす父(若い時代はオダギリジョー)が突然死したと訪ねて来た従兄の茂(竹原ピストル)に知らされ、茂一家と共に20数年ぶりに故郷へ向かうが・・。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・陽子の声が前半はか細い。
普段話さない事と、人と接しない生活を長年送ってきた事で、コミュニケーション不全にもなっているようである。
・陽子は東北高速道路のSAで茂一家とはぐれてしまう。陽子は且つて家族で来た所で亡き父に渋滞の際に怒鳴られていた事を、愚痴っぽく呟く。その脇にはくすんだ赤の野球帽を被った父がやや申し訳なさそうに、張りぼての記念写真を撮る穴から顔を出している。
ー 茂一家とはぐれた辺りの描き方は、やや粗い。子供がSAで怪我をし、病院へ連れて行ったようだが。茂は、陽子のスマホが壊れている事を知っているのに・・。ー
■その後、陽子が高速のSA、PAで出会った人達
・最初に陽子をヒッチハイクしてくれた明るい女性。会社が倒産し、面接に行った帰り。中学生の子供が引っ越しに難色を示している事を陽子に話し、”私、SAで幸せそうにしている家族って嫌いなんですよ。浮かれちゃって・・。事故に遭えばいいと思ってるんですよね。”
ー だが、陽子は彼女の言葉に返答も出来ない。そして、別れ際借金の申し出をするが、やんわり断られる。陽子がコミュニケーション不全である事が分かるシーンであり、人が見かけに寄らないダークな一面を持っていることが分かるシーンでもある。-
・ヒッチハイクに慣れている若き女性。
だが、彼女はお金もあるのにヒッチハイクを続ける理由を問われ”マア、色々と在るじゃないですか”と答える。
■陽子は、SA、PAのトイレの中で”大きな声で”ヒッチハイクしてもらうための練習をする。彼女自身が変化しなければと思った事を暗喩しているシーンである。
・陽子をヒッチハイクした自称ライターの愚かしき男(浜野謙太)。陽子を無理やりラブホテルに連れ込むが、忘れていた仕事の問い合わせがあり、彼女を置き去りにして去る。
ー ヒッチハイクあるあるだそうである。
そして、彼女はフラフラと海岸に行くが、亡き父に頬を殴られ、海辺で全身波に濡れながら、横たわっているのである。-
・青森に近づくと、人として温かい心を持った老婆(風吹ジュン)とその夫の軽トラに乗せて貰っている陽子。
ー 陽子を気遣う2人に対し、陽子自ら、強く握手を求める姿は、少し沁みる。
そして老婆の紹介で陽子は移住して来た女性の軽トラ更に乗って更に故郷に近づいて行く。そこから見える震災の傷跡・・。-
・校則のSAで”青森に帰りたいんです!”と叫ぶシーン。
多くの人から無視されるが、一人の少年が”ハイ!”と返事し、少年の父(篠原篤)が運転する車で、更に故郷に近づく。
■この車中で、陽子が”少し話しても良いですか・・。”と言い、自らの18歳で上京してからの悔いある人生を長台詞で語るシーンは白眉である。
菊池凛子さんの渾身の演技が炸裂している。
陽子は大きな声で、家を出た時に42歳だった父の事、自分がいつの間にかその年になっている事。実家と音信を取らなくなった事などを涙を浮かべながら、喋るのである。
それを遮ることなく黙って聞いている少年の父の横顔。
<そして、漸く雪降る中、歩いて着いた実家。
茂が出て来て”出棺を遅らせていたんだ・・。”と言う中、陽子はフラフラと24年振りに実家に入って行くのである。
今作は、序盤は一部物語構成に瑕疵があるが、中盤から陽子が様々な人と出会う事で、諦観していた人生を深い後悔の念で振り返りながら、もう一度原点に戻って行く姿を描いたロードムービーなのである。>
<2023年9月17日 刈谷日劇にて鑑賞>
生を取り戻すための658kmの旅
658kmとは陽子が暮らす東京から故郷の青森までの距離のことだ。
その青森までヒッチハイクをしながら車で旅をするロードムービー。
陽子(菊地凛子)は18歳の時に親の反対を押し切って東京に出てきた。
夢を持って出てきたのだが、現実は在宅の仕事でほぼ引きこもりのフリーターで年齢も42歳になってしまった。
そこへ、父(オダギリジョー)の訃報が伝えられる。
陽子は出棺を見届けるために叔父(竹原ピストル)の車に同乗し青森に向かうのだが、サービスエリアでのあるトラブルにより、逸れてしまう。
荷物を車に置いたままでお金もないため、ヒッチハイクで青森に向かう旅が始まる・・
陽子は引きこもり生活で人とうまくコミュニケーションが取れないまで心が疲弊している。
18歳の時から24年、実際の距離は658kmだが時間軸の距離は658kmよりもっと、とてつもない距離が出来てしまったのかもしれない。
陽子の旅は青森に近づくにつれ心の距離も取り戻していく。
ヒッチハイクを成功させるには人とコミュニケーションを取らないといけない。
人間は生きるか死ぬかの局面では逞しくなる。
それは本来の生きる力だ。
陽子は旅で出会う人々、その中にはかつて喧嘩別れした父の幽霊も含まれるのだが、それらの人とのやりとりにより人間力を取り戻していく。
父の死を見届けるための旅で自身の生を取り戻していく姿が印象的。
幽霊の父が見える陽子は死に近づく存在で、父との決別が父が陽子を再生させるための最後の愛情だと思うと胸が熱くなる。
菊地凛子が渾身の芝居を演じている。彼女の代表作の一つになるだろう。
そして旅で出会う人々
人気のないサービスエリア
旅の途中に通り過ぎる東日本大震災の被災地
寒々しい海岸沿いの道
雪の中にポツンとある青森の実家
人と風景が素晴らしい。
はたして父の出棺は見届けることができるのか、しかと見届けてほしい。
叫び
この「旅」はもちろんメタファーなので、「ああすればよかったのに、こうもできたのに」というツッコミは無意味です。
私も陽子と同じで、「あなたが努力しなかっただけでしょ」と言われ続けた世代です。
置いていかれ、排除され、嘘をつかれ、こちらの責任でないことの責任を取らされ……
本当に、ただ生きているだけで何度叫び出しそうになったことか。
困っている人がいたら車に乗せてあげるなんて、人間として当たり前のことじゃないですか。
困った女一人が車に乗ってきたからって、恩を着せたり、代わりに体を要求したり、そんなことしないのがまともな大人でしょう。
でも、二言目には「あなたが悪いんでしょ」。「人のことなんて知らねーわ」。
違いますよ。車に乗せてくれなかったおじさんとおばさん。
あんたたちの世代の失政や不作為の尻拭いを我々はさせられたんだ。自分の人生を犠牲にするという形でね。
「ここまで来られたのは皆さんのおかげです」なんて感謝、本当はしなくていいんですよ。
しかし、この社会と和解するには、そうとでも思うしかないんですよ。
今更ながら人はひとりで生きていくには
引きこもり生活の女性、若い頃にはやりたいこともあり夢もあった、くじかれた時に方向性を変えられる柔軟性がないばかりに引きこもり生活。現代には多いと思われるが、やはり人との関わりこそが人が人たる所以で、関わることをやめたら生きてる事の実感すら感じないだろう。
そんな問題を抱えた人間を菊地凛子が本当に演じきっていて観るに連れて引き込まれていく。
ヒッチハイクするに至る理由は無理があるが、最初は行く事にさえ面倒だと感じてたのも人と触れ合うに連れ自分を変えたい、父親の最期を見送らなきゃならないと思うようにもなり心の変化の過程を見事に演じていた。
風吹ジュンは最近老夫婦の役では右に出る者はいない。
それにしてもオダギリジョーはここのところ故人の役が多いのはなんでだろう。
この映画良かった、世の中捨てたものじゃない、けれど一部には弱みにつけ込む悪いやつもいる。
それでも人と関わることの大切さをしみじみと伝えてくれた。
自分と重なり少しツライ
菊地凛子さんの演技、存在感が全ての映画でした。
引きこもって暮らす42歳の陽子。
青森の父の葬儀に向かう途中、トラブルもありヒッチハイクで向かうことに。
道中いろんな人との出会いがあるが自己肯定感の低さゆえ、目の前の目的を果たすために間違った判断をしてしまうことも…
わかるわぁ、、、その感じ!と陽子に共感して辛くなる。
しかし従兄弟(竹原ピストル)の非常識な言動にイライラ!
いくら子どもが怪我したからってサービスエリアに置き去りにする?!
再開しても謝罪も気遣いもなし。どう考えてもおかしいやろ!
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