「【18歳で上京するも夢破れ、諦観したように生きる42歳の女性が父の訃報を聞き、故郷にヒッチハイクで向かう中、様々な人と出会う事で自らの悔いある生き方を振り返り、原点に戻る姿を描いたロードムービー。】」658km、陽子の旅 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【18歳で上京するも夢破れ、諦観したように生きる42歳の女性が父の訃報を聞き、故郷にヒッチハイクで向かう中、様々な人と出会う事で自らの悔いある生き方を振り返り、原点に戻る姿を描いたロードムービー。】
■陽子(菊池凛子)は、42歳独身。
クレーム処理の仕事をアパートの自宅で行っているがその生き様は自身の人生を諦めており、且つ人と会わないためコミュニケーション不全にも陥っている。
だが、ある日故郷の青森県に暮らす父(若い時代はオダギリジョー)が突然死したと訪ねて来た従兄の茂(竹原ピストル)に知らされ、茂一家と共に20数年ぶりに故郷へ向かうが・・。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・陽子の声が前半はか細い。
普段話さない事と、人と接しない生活を長年送ってきた事で、コミュニケーション不全にもなっているようである。
・陽子は東北高速道路のSAで茂一家とはぐれてしまう。陽子は且つて家族で来た所で亡き父に渋滞の際に怒鳴られていた事を、愚痴っぽく呟く。その脇にはくすんだ赤の野球帽を被った父がやや申し訳なさそうに、張りぼての記念写真を撮る穴から顔を出している。
ー 茂一家とはぐれた辺りの描き方は、やや粗い。子供がSAで怪我をし、病院へ連れて行ったようだが。茂は、陽子のスマホが壊れている事を知っているのに・・。ー
■その後、陽子が高速のSA、PAで出会った人達
・最初に陽子をヒッチハイクしてくれた明るい女性。会社が倒産し、面接に行った帰り。中学生の子供が引っ越しに難色を示している事を陽子に話し、”私、SAで幸せそうにしている家族って嫌いなんですよ。浮かれちゃって・・。事故に遭えばいいと思ってるんですよね。”
ー だが、陽子は彼女の言葉に返答も出来ない。そして、別れ際借金の申し出をするが、やんわり断られる。陽子がコミュニケーション不全である事が分かるシーンであり、人が見かけに寄らないダークな一面を持っていることが分かるシーンでもある。-
・ヒッチハイクに慣れている若き女性。
だが、彼女はお金もあるのにヒッチハイクを続ける理由を問われ”マア、色々と在るじゃないですか”と答える。
■陽子は、SA、PAのトイレの中で”大きな声で”ヒッチハイクしてもらうための練習をする。彼女自身が変化しなければと思った事を暗喩しているシーンである。
・陽子をヒッチハイクした自称ライターの愚かしき男(浜野謙太)。陽子を無理やりラブホテルに連れ込むが、忘れていた仕事の問い合わせがあり、彼女を置き去りにして去る。
ー ヒッチハイクあるあるだそうである。
そして、彼女はフラフラと海岸に行くが、亡き父に頬を殴られ、海辺で全身波に濡れながら、横たわっているのである。-
・青森に近づくと、人として温かい心を持った老婆(風吹ジュン)とその夫の軽トラに乗せて貰っている陽子。
ー 陽子を気遣う2人に対し、陽子自ら、強く握手を求める姿は、少し沁みる。
そして老婆の紹介で陽子は移住して来た女性の軽トラ更に乗って更に故郷に近づいて行く。そこから見える震災の傷跡・・。-
・校則のSAで”青森に帰りたいんです!”と叫ぶシーン。
多くの人から無視されるが、一人の少年が”ハイ!”と返事し、少年の父(篠原篤)が運転する車で、更に故郷に近づく。
■この車中で、陽子が”少し話しても良いですか・・。”と言い、自らの18歳で上京してからの悔いある人生を長台詞で語るシーンは白眉である。
菊池凛子さんの渾身の演技が炸裂している。
陽子は大きな声で、家を出た時に42歳だった父の事、自分がいつの間にかその年になっている事。実家と音信を取らなくなった事などを涙を浮かべながら、喋るのである。
それを遮ることなく黙って聞いている少年の父の横顔。
<そして、漸く雪降る中、歩いて着いた実家。
茂が出て来て”出棺を遅らせていたんだ・・。”と言う中、陽子はフラフラと24年振りに実家に入って行くのである。
今作は、序盤は一部物語構成に瑕疵があるが、中盤から陽子が様々な人と出会う事で、諦観していた人生を深い後悔の念で振り返りながら、もう一度原点に戻って行く姿を描いたロードムービーなのである。>
<2023年9月17日 刈谷日劇にて鑑賞>
こんばんは。共感ありがとうございます。菊地さんの演技が自然でドキュメンタリーをみているようでしたが、おっしゃるように、SAでの置いてきぼりは無理がありましたね^^; (仮にピストルさんがふった愛の鞭だとしても)
あの道中、父の姿(陽子の幻想)が支えになり長年なかった他人との接触で硬い殻を破りながらの658キロ、まさに原点に辿り着くまでを母のように、姉のように…見守りました。