劇場公開日 2023年2月23日

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「命の価値はいくらか、計算できるか?」ワース 命の値段 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0命の価値はいくらか、計算できるか?

2023年3月5日
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鑑賞方法:映画館

そうか、あれからもう20年が過ぎているのか。Sonyのウォークマン、カシオの計算機、そうまだこの頃は日本製の品質は世界を席巻してたな、と思い出しながら。

被害者補償基金。人の人生に値段をつける汚れた仕事。マシーンのように人の人生に値段をつけていた弁護士が、徐々に変わっていく。そこには、人としての感情が、値段に掛ける係数に作用していく姿がある。最後は、気分的にはゴール直前でブチ抜いた会心の勝利、ってわけだ。
でもね、じゃあ被害者及び遺族はすべて善人か、といえば噓になる。企業家たちが利益優先(補償金を極力出したくない)はデフォルトなのだ。そのうえで、公平であるべき、公平は存在しない、、、まるで詭弁の応酬のような化かし合いの様相でもあった。「血に飢えた狼たちの群れ」を相手にする弁護士こそ、気の毒に思えた。寄り添おうとすれば、そこには少なからず悪意寄りの思惑があったし、食い違いもある。本音と演技、涙を流す人がすべて善でもなければ、怒れる人がすべて正義でもない。そんな被害者と遺族との交渉なんて、身内の苦しみまでも共にしょい込んでヘトヘトになるわ。
大切なのは、公平さではなく前に進むことだ、という。それは、結局グレーゾーンが存在するということか。だから、「金じゃない」と声高に叫ぶ奴から漂う、金への執着心にちょっとうんざりした。こういう社会派映画に対する評価は高めにしておかないと情がないようの思われそうだが、結局、残されたのは気の毒な家族ばかりではなくて、真実から目を逸らしていた人や、本人の真意を理解していない遺族もいたってことが、僕をそういう気分にさせるのだ。被害者の尊厳を守ろうとしているだけではなく、訴訟を起こして少しでも金を引き出そうとしている人だっていたってこと。初期の賛同者があまりにも少なかったのは、そういうこと。
こちらの気分は、けして喝采ではなく、こういう人たちを相手に誠意を試される仕事は大変だ、という思いばかり。

栗太郎