「地味にして誠実な作りの成長譚」ワース 命の値段 regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
地味にして誠実な作りの成長譚
911テロ被害者と遺族救済を目的とした補償基金プログラムの特別管理人を任された弁護士ケン・ファインバーグ。経営する事務所総出で無償で取り組む事からも、彼は悪人どころか善意の人。しかし完璧そうに見えて、メモ取りも出来なければ、家族と夕食する際の伝達も秘書に任せてしまうなど、自分では何もしない、何も出来ないという欠点が次第に明らかとなる。「規則だから」「ルールだから」として自分が打ち出した方針を推し進めようとするうちに被害者遺族との齟齬を感じ、彼は変わっていく。本作はファインバーグの成長物語でもある。
肝心の補償額算出の仕組みに細かく触れていない点は気になったし、冗長に感じる面もなくはなかったが、ドラマチックに盛り上げる要素を入れず、遺族たちの証言シーンをじっくり丹念に取り上げるなど、実に誠実な作りに徹している。これは本作の制作会社を設立したのがオバマ元大統領夫妻だからというのもあるだろうし、共和党(=子ブッシュ)への遠回しな批判なんかも、そうしたバックグラウンドを鑑みれば納得。
若干の“しこり”も残した終わり方にしているあたりに、様々な問題を抱え続ける大国アメリカの現状を垣間見た思い。
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