「営み」せかいのおきく U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
営み
食べて出して恋をして。
突き詰めると「生きていく」ってこういう事なのかと思える。とてもメッセージ性の強い作品だった。
主人公の2人は人糞を生活の糧にしている。抵抗感の強い職種ではあるが、それを担う人が居ないと社会は成り立たない。何億と稼いでる人も、巨大な権力を有してる人も、絶世の美女も空前絶後のイケメンも、彼らがいなければ生活もままならないのだ。
そう考えれば蔑む理由も、卑下する理由もないのだが、そうはいかない事情を彼らからの視点は物語る。
劇場から出て、すれ違う人達に親近感を覚える。着飾ったり踏ん反り返ったりしてはいても、根本的には変わらないのだろうな、と。
勝手に階層を作ってるのは滑稽にも思う。
おきくさんは言葉を失う。
読み書きもままならず、手話もない時代では意思の疎通をする術がない。万人が文字を読めるわけではないし、むしろ市井の人々は読めない人の方が多い。
重大なハンデを背負ってしまう。
半年程引きこもったおきくさんは、若干痩せたようにも見えたし、それでも生きていけるだけの糧は他人が与えてくれていたのだろう。
家賃を払えない店子を抱える大家も、収入以外の必要が大家さんにもあったのだろうと思う。相互扶助で成り立つ社会の原理を説かれてもいるようだった。
おきくさんは恋もする。
好きな人の名前を書いて照れ臭さに悶絶するおきくさんは、とてもとてもいじらしかった。
恋が成就し、彼の足音に聞き耳をたてる様は、塞いでいたおきくさんとは雲泥の差で、生きる事を楽しんでいるようにも見え、恋愛とはこんなにも人に活力を与えるものなのかと改めて思う。
おきくさんに役割があるように、作中の登場人物全てに役割があった。
クソみたいな世の中は、今も昔も大差はないが、野原に寝っ転がって惰眠を貪る2人をちょっと羨ましく思う。
生きていく事はそんなに複雑な事ではないと、複雑にしているのは寧ろ我欲に起因する事の方が多いのだろうと思う。
作中に散りばめられた台詞の数々は、噛み締めると深みが増すものも多く、全編にわたり糞が出てくるわけなのだけど、かなり高尚な文学作品でもあった。
阪本順治監督の感性の豊かさを物語る。
人の上に人を作らず、人の下に人を作らず。
こんな標語を残した偉人は誰だったろうか?
そんな原理を現代に問いかけた作品にも思えた。
⭐︎−0.5は必然とは言え糞のせいである。
…俺は監督ほど人間が出来ていないのである。
申し訳ない。
監督が意図した事なのかはさておき、自分にそんな視点が増えた事はとても有意義な事だと思えたし、フッと気が楽になりました。
他人に勧めるには気がひける絵面ではありますがw