劇場公開日 2023年4月28日

「江戸の青春」せかいのおきく kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0江戸の青春

2023年5月25日
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鑑賞方法:映画館

江戸時代末期、人々はいかなる境遇をも受け入れ、逞しく生活していた。

日本の映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して“良い日”を生きる人々を映画で伝えようという「YOIHI PROJECT」の第1弾作品だとのこと。
人は上から食べて下から排泄する。それが土とともに作物を育て、人の食料となる。
循環型社会=江戸を舞台に、若者3人が懸命に生きる様子を映し出した青春時代劇。

「江戸のうんこは何処へ」
全編通して”うんこ“の映画である。
モノクロだからリアルすぎない映像で、でもやっぱりリアルに描かれている。
だが、画面全体は汚いどころか、美しい。

当時、農家は人の糞尿を肥料にしていて、自家の排泄物では足りなかったので、農家に人糞肥料を売りにくる商売があった。
その商売を「下肥(シモゴエ)買い」と呼び、「下肥売り」とは呼ばれなかったようだ。
農家以外の人たちから見た呼び名なのだろうが、排泄物の汲み取りをした側が金を払うという、なんとも不条理な商売だ。
一般の町人より武家の排泄物の方が(いいものを食べているから)高価だったというから可笑しい。
この映画には公衆便所が描かれている。江戸時代の後期には江戸の町に公衆便所が設置されていたらしい。無料で使えるうえに意外と清潔に保たれていて、それなりに経費がかかったようだが、下肥を売った収益で賄えていたとか。
長屋の便所の汲み取りの様子も描かれている。住民の排泄物は大家の貴重な収入源だったそうだ。
世界最大の人口密度だった江戸の町が、同時期の世界のどの都市に比べても衛生的だったと、何かで読むか聞くかしたことがある。
下肥買いたちの労力が貢献したことは間違いなさそうだ。

私が子供の頃はまだ田んぼに「肥溜め」があった。あの中身は、農家がどこかから買っていたのだろうか…。

この映画で描かれる下肥買いの若者は、買う立場の時も売る立場の時も見下されている。
士農工商の身分制度にあって、農工商より低い身分の人たちの仕事だったのだと理解した。
白土三平の「カムイ伝」で、処刑された罪人や牛馬の死骸処理を仕事にしている非人の集落が描かれていたのを思い出したのだ。
だが、本作では身分制度には触れておらず、中次(寛一郎)は町中の長屋に住んでいて、後におきく(黒木華)が教える寺子屋で子供たちと机を並べていたから、非人ではなかったかもしれない。
矢亮(池松壮亮)と歩いていたおきくに通りがかりの女が言う「どうしてあんな人を連れてるの?」が、普通の感覚だったのだろう。職業に貴賤はあったのだ。
一方、おきくが住む長屋の連中は彼らを蔑んではおらず、臭くて鼻をつまむくらいだった。

「世界」という言葉はこの頃もうあったのだろうか。
安政から万延にかけての物語だから、既に黒船は来訪していて、安政の大獄が始まっていた。
江戸の人々は「異国」を意識していたと思う。
「世界」という言葉は中国伝来だろうとは思ったが、サンスクリット語の漢語訳で、仏教用語だったらしい。なんと「竹取物語」に「世界」という言葉が使われていたそうな。

おきくの父源兵衛(佐藤浩市)が中次に言う。
惚れた女に言ってやれ「世界で一番お前が好きだ」ってな。
…親子共演の貴重な場面だ。

おきくと中次と矢亮、三人の若者。
彼らの、虐げられても、惨劇に遭っても、前を向いて生きる活力を失わない逞しさに加え、恋する若者の純情を素直に表現していて、清々しい作品だった。

おきくに「世界で一番お前が好きだ」と声ではなく身振り手振りで伝えようとする中次の姿が、可笑しくもあり感動的でもあった。

せいしゅんだなぁ!

kazz
グレシャムの法則さんのコメント
2023年5月25日

最近リバイバル上映されてた『食人族』で、口から肛門まで串刺しにされた女性のシーンがポスターにもなってて衝撃的でしたが、人体の構造はメチャクチャ単純化すれば、ちくわ。口からお尻までは長い空洞で、身体の内側のようでもあり、外側でもある。メビウスの輪みたいですよね。
つばもオシッコもうんこも、一旦身体の外に出れば不浄不潔の扱いをされるけど、ついさっきまで、自分の中にあったのに…。というわけで、うんこを語るのは、実は、哲学に通じるのですよね😃

グレシャムの法則
NOBUさんのコメント
2023年5月25日

今晩は。
 今作は、近くに公開している映画館が無くって車を一時間走らせて、朝早い時間に見に行ったのですが、モノトーンとカラーの色分けと言ったテクニックよりも純粋に良き映画だなと思いました。
 近年、時代劇が少なくなっている中で(あ、”梅安”は別格です。)今作の様な江戸庶民の生き方を描いた作品はとても貴重だと思いましたね。では。あ、返信は不要ですよ。
 これからも宜しくお願いいたします。-拝ー

NOBU
humさんのコメント
2023年5月25日

汚物まみれな映像に登場人物の純粋さが際立つ素敵な作品でしたね。

hum
Mさんのコメント
2023年5月25日

青春でしたね。

M