劇場公開日 2023年4月28日

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「人間は仕事に生きるに非ず、役割りを見つけ出せ」せかいのおきく シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人間は仕事に生きるに非ず、役割りを見つけ出せ

2023年5月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は予告編を見て、絶対に見ようと思っていました。
日本の時代劇にはチャンバラ(アクション)メインの作品と、落語の様な長屋モノの庶民の日常を描いた作品と、大きく2種類のタイプがあって(テレビなどのシリーズでは両方融合されたものが多い)、割合で言うと圧倒的に前者タイプの方が多く、本作は珍しく後者の物語の様だったので見たくなりました。
更には、後者の傑作の代表に『人情紙風船』という作品があり、この作品の影響なのか悲劇的で暗い作品が多かったのですが、本作は悲劇的要素も含みつつ最後は希望で終わっていたのも珍しかったです。
で本作の内容ですが、テーマとして恋愛モノと生き方(人生観)について、大きく2つの核で物語が進み、私は前者は苦手な分野なので後者のテーマに様々な考察へのインスピレーションを貰いました。

ここからは少し映画から外れた内容で進んで行くとは思いますが、映画のメッセージには通じるとは思いますのでご容赦を…
近年、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という国連目標が叫ばれ続けていますが、これを聞いて意味や主張は分かるがどうしても真剣に聞けず鼻で笑ってしまう人が多くいて、私もその一人です。
何故そうなるのかというと、様々な社会問題に対していつも同じセリフの繰り返しになるのですが“今更言うな”に尽きるのです。今更言うこと自体が遅すぎるのですよ。
歴史的に産業革命から200年間、世界はこの方向で進んできたのです。それからずっと自然破壊しながら、一部のパワーを持った人間の目先の豊かさだけを追いながら、将来の危機についても予測していながらも突き進んだ人間が、200年前に戻れるのか?という疑問から、今更信じられないという意味で苦笑してしまうのですよ。
まさに人間社会に於いて、歴史上最も激しく変化したこの200年であり、そして本作がまさに200年前の日本の姿であって、今の日本人が当時の生活に戻れるのか?ということです。
何故、人間は自然破壊をしてまでも産業革命を突き進んだのか?という疑問を解決してからでないと、急にSDGsを叫ばれても何も進まないという話です。

それを踏まえ話を本作に戻しますが、人間社会の歴史は何千年前に“都市”というものが出来てから、糞尿問題との戦いでもあった筈です。
少し前「水滸伝」を読んだ時もこのエピソードが出てきましたし、欧米社会のハイヒールも糞尿対策から生まれたものだと聞いていて、日本の江戸は世界でもその対策が最も進んだ都市であったと言われています。まさに今言うSDGsの理想社会であったのです。
本作では“役割り”というのが重要なテーマになっています。
現在、機械化・AI化によって産業革命以降に生まれた人間の“仕事”(労働)というのがかなり無くなってしまっています。だったら人間は仕事をしなくても良いのか?という問題が出てきますが、江戸時代の庶民(町人であり、士農工商の工商に当たる人達)というのは殆どがフリーターだったらしいです。武士と農業の様な毎日毎日一定の仕事がある人間などいなかったという意味です。皆が皆その日暮らしの日雇いの様な存在であり、“宵越しの金は持たない”という言葉は、その日暮らしのそうせざるを得ないという意味でもあるのです。なので、当時は“仕事”という言葉よりも“役割り”という言葉の方が重要だったのだと思います。
で本作は、仕事が無くなりつつある現代人が参考にすべきは江戸時代の庶民の生き方(思考法・観念)の中にヒントがあるのかも知れないという映画だったような気がします。
SDGsを叫ぶなら、こういう物語の様に人間の本質とは?から、じっくりと世界的なコンセンサスを得ながら教育と方向転換を進めなければ、ただの絵に描いた餅に過ぎないってことだと思いますけどね。

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シューテツ