「食べ物を買って入らない方が・・・笑」せかいのおきく TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
食べ物を買って入らない方が・・・笑
私にとって坂本監督に対する印象は、何となくつかみどころがありません。撮っている作品は、硬派でハードボイルドなものが比較的多いですが、最近はユーモラスを盛り込んだドラマ作品も少なくありません。それらは一味変わった独創性を感じるのですが、残念ながらトレーラーで感じた「期待度」は超えてこないことも少なくなく、少々肩透かし感が否めないのです。今作『せかいのおきく』もかなり期待をもって臨みましたが如何に?
作品は章立てに構成されており、基本はモノクロームなのですが、各章の終盤で1シーン色が差されてカラーになったりして、その一瞬に不意にドキッとさせられます。
勿論、モノクロの画だけでも十分な表現力は撮影や、照明の力量を感じます。ひときわ、矢亮(池松壮亮)と中次(寛一郎)のなりわいである「下肥(しもごえ)買い(汚穢屋:おわいや)」という仕事がら、何度も出てくる「う○こ」。特に冒頭一番のシーンの「それのアップ」は美術や録音の仕事がその画に輪を掛けており、観るに堪えないからと多少目を逸らしたところで、それを扱う音がまたえげつなく、しまいにはセリフで「臭い臭い」が連呼されるため、こちらまで臭ってきそう。ちなみにこの作品本編90分と短めですから、食べ物を買って(シアターへ)入らない方がいいかな、と思います(笑)。
また、モノクロで際立つのが何と言っても中次演じる寛一郎さんの「色気」と、おきく演じる黒木華さんの「透明感」ですね。
寛一郎さん、本作では実父である佐藤浩市さんとの共演ですが、演技そのものではまだまだ及ばないものの、彼の色気は若いころの浩市さんを凌いでいるのではないでしょうか。これからが楽しみな俳優の一人です。
そして、黒木さんは揺るぎないですね。恐らくは、監督の想う「おきく像」そのものか、それ以上なのではないかと思うほどで、ややキレキャラだったり、でも時折トキメいたりと、おっとりしていないところが魅力的。貧しいながらも気概をもって生活する長屋の庶民たちに囲まれ、周りに負けないキャラクターで愛されるおきくを一分の違和感もなく演じきっています。
総じて、それなりに映画館で観る価値はあったと思います。が、基本的には小さな話です。例えれば落語みたいな話で、90分とミニマムにまとめていても展開としては正直「やや退屈」かもしれません。むしろ、演技から想像する「(セリフの)行間」や「想い」を汲み取るのに、反芻するがごとく何度か繰り返して鑑賞するとより深く味わえるかもしれません。