「筒井真理子劇場(ホラー風味を添えて)」波紋 Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
筒井真理子劇場(ホラー風味を添えて)
筒井真理子が演じる須藤依子は、新興宗教「緑命教」の信者だ。スーパーのレジ係をして慎ましく暮らしているが、
ある日、蒸発していた夫(光石研)が突然帰ってくる。
がんを患い高額な医療負担に対して、蒸発中に亡くなった父の遺産をあてにして戻ったことが分かる。
筒井真理子の演技が実に見事だ。
◆職場の仲間(木野花)とおしゃべりを楽しむ顔
◆宗教団体の集会で真顔で歌い踊る顔
◆夫に向ける憎悪と殺意と憐れみの混じった顔
◆一人息子(磯村勇斗)の彼女(津田絵理奈)に向ける差別の顔
まさに百面相だが、決してエキセントリックな存在ではない。普遍的な女性像を表している(と思う)。。。
夫が蒸発した後の労苦が、彼女を新興宗教に走らせ、性格を歪めたのか?
いや、
どうやら、違うかもしれない。
一人息子が、母に叫ぶ。
「父さんは放射能から逃げたんじゃない。母さんから逃げたんだ」
映像の至るところに「水」が象徴的に使われる。
宗教団体が信者に売る水(緑命水)、庭の枯山水、プール、演者が対峙する場面のCG、ラストシーンの雨…
波紋は「水」がないと生じない。
「水」に何かモノが落ちると波紋が生じる。
しかし、水がなくても生じる波紋もある。
枯山水は、水を使わず波紋を表現する。
彼女にとって、大小の違いはあるが、
家族も、
カスハラおやじ(柄本明)も、
隣の主婦も、
その飼い猫も、
宗教団体のメンバーも、
すべて波紋(実態のない不安をかき立てる事象)にすぎないのかもしれない。
筒井真理子、光石研、津田絵理奈が素晴らしい演技を見せている。
最後の最後まで見る側を引っ張りきる脚本に敬意を表したい。
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